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LNJ Logo 松本昌次のいま、読みつぎたいもの : 「オバマ米大統領広島演説」批判
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第9回 2016年6月1日 松本昌次(編集者)

「オバマ米大統領広島演説」批判

 “いま、読みつぎたいもの”は、言うまでもなく、わたしが記憶し心に刻んだ先人の言葉や作品をとりあげ、現在の思想的・政治的状況への批判の一助にしたいと試みているものです。しかし時には、否定的な意味で、読みつぎ、忘れないように心がけねばならない発言や、それに関連した事態が起こります。それに対しては、急いで異議を申し立てねばなりません。それが、ハタ迷惑な、税金をフンダンに使った果て、“大山鳴動鼠一匹”に等しい“伊勢志摩サミット”につづく、オバマ米大統領の広島訪問での演説と行動でしょう。

 オバマ大統領は、演説の冒頭で何と言ったでしょうか。71年前の雲ひとつない晴れ渡った朝、「死が空から降ってきて」(death fell from the sky)世界が変ったと語りはじめたのです。えっ? 原爆は、雨や雪のような自然現象なのでしょうか。ヒユとしても余りにも失礼で、事実をボカすにも程があります。謝罪したくなかったらしなくてもいいから、せめて「米軍によって世界最初の原爆が投下されました」と、どうして言えないのでしょうか。

 こういうゴマカシを言う人の言葉には真実味がありません。以下何を言うかといえば、太古の昔からあった戦争にはつきものの暴力です。つまり、原爆もまた、最も「残酷」ではあるにせよ、そのひとつと言いたげです。そして、原爆を投下した爆撃機のパイロットを許した女性を引き合いに出し、憎いのは戦争だと一般化するのです。誰が上から命令され、それを実行したパイロットを憎むでしょうか。いうまでもなく、その責任は、明らかに非戦闘員、オバマ大統領のいう「罪なき人たち」(innocents)を大量に虐殺できるだろうことを、実験によって明確に予知しながら、しかも、日本の降伏を目前にしながら原爆を投下した米国、及び当時の責任者とそれに加担した周辺にあります。また、広島につづき長崎に、種類の異なる原爆を投下したこと、しかも、ともに人口密集地を目標にしたことは、その“実験性”を証拠だてるといわねばなりません。

 オバマ大統領は、用意された“美しい言葉”を並べたてます。すべての命は尊いとか、71年前にはここに同じ大切な時間があったとか、広島と長崎を道徳的目覚めの始まりにしたいとか、どれも当たり前のことです。しかしもし目覚めるとするならば、まず、唯一、原爆で非戦闘員を大量殺戮した米国でしょう。原爆により、敗戦の年に14万人が死にました。そして現在までに30万人の死者を数えます。オバマ大統領の演説をひとことで要約するならば、「巧言令色鮮(すくな)し仁」(論語)ということです。さきごろ起こった沖縄での米軍属の男による女性殺害容疑事件の折、安倍首相や政府は、これまで同様、「再発防止と綱紀粛正」を繰り返しました。それに対し、翁長雄志知事は、「話(はなし)くわっちー」と呼んだといいます。「決して実現しない口先だけのよい話」という意味です。この言葉をオバマ大統領にも送りたいと思います。

 その証拠に、オバマ大統領は、核攻撃の承認に使う機密装置を持った軍人数人を同行させていたのです。「核なき世界」を滔々と演説しながら、一方で、いつでも核攻撃が可能な「核のボタン」を、事もあろうに、広島の平和公園に持ち込んでいたのです。しかも、平和記念資料館では、入口に集められた資料を、わずか5分か10分見学したに過ぎません。朝鮮人原爆犠牲者慰霊碑は素通り、これで“ヒロシマ”を見たといえるでしょうか。被爆者を抱擁したり、折り鶴をとどけたりなどというパフォーマンスに目がくらんではなりません。いまから90年ほど前に書かれた中野重治の短篇小説の最後の一行を引いてとどめとします。――「わたし等は侮辱の中に生きています」(春さきの風)

*編集部注 : 巧言令色鮮し仁
【読み】こうげんれいしょくすくなしじん
【意味】巧言令色鮮し仁とは、言葉巧みで、人から好かれようと愛想を振りまく者には、誠実な人間が少なく、人として最も大事な徳である仁の心が欠けているものだということ。「論語」のことば。(故事ことわざ辞典より)


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