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「沖縄から不正義を問う」〜潮平芳和・琉球新報編集局長

     林田英明

 しゃべりはやや早口で聞き取りづらい。冗談もシャープとは言えない。だが、話している中身は沖縄の歴史を肌で感じているだけに深みがあり、浮ついた表現はない。その実直さが好ましい。「沖縄から不正義を問う」をテーマにした潮平芳和・琉球新報編集局長(55)の講演が11月21日、福岡市であり、60人が参加した。「沖縄を語る会」など主催。

●また安保の「捨て石」と危惧

 潮平さんはパワーポイントで「沖縄・辺野古―日本 非暴力の抵抗」と題した写真を見せながら、「最前線」である辺野古の現状から説明に入った。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先、名護市辺野古のキャンプ・シュワブゲート前での移設反対派の座り込みが3日前に500日を迎えたところである。翁長雄志知事の辺野古埋め立て承認取り消し処分に、国が処分撤回の代執行を求めて福岡高裁那覇支部に提訴するという異常事態が進行していた。

 辺野古に建設されようとする新基地は、普天間代替というレベルを超えた軍事施設である。耐用年数200年。これは基地固定化につながると恐れる潮平さんは「人権と生存権侵害、事件・事故の危険、自然破壊。(垂直離着陸輸送機)オスプレイだけでなく戦闘機も来る。騒音被害も増える。軍事基地が集中する所はターゲットになる」と一気に語り、70年前の沖縄戦の惨禍を知る県民の「またしても安保の捨て石にするのか」との拒否感を代弁した。

 沖縄の基地集中は、日米安保の戦略上、当を得ているのだろうか。潮平さんは米高官や知日派の最近の動きを示して疑問を呈していく。ジョセフ・ナイ氏は、中国のミサイル技術の向上によって沖縄に米軍基地が集中するのは脆弱性をもたらすから辺野古移設は長期的解決にならないと昨年表明、基地リスクを分散するためにオーストラリアやグアムへの海兵隊移転を提言している。ところが、そうした提言に日本政府がブレーキをかけているという。モンデール元駐日大使とのインタビューでは「普天間移設案は日本が決定した」との証言が得られ、アーミテージ氏からは辺野古案の代案があれば柔軟性をもって聞くとの返事を受けている。それぞれ琉球新報の1面トップの記事だが、本土メディアで大きく扱われることはない。もどかしいほどの情報格差をどう埋めるかが、沖縄のメディアにとって課題でもある。

 米国政府は、民衆の敵意に囲まれた基地は維持できないと自覚している。ただ、彼ら知日派の政治・外交姿勢は米国の世界支配が基底にあり、安全保障の枠からはみ出るものではないと私は思うので、過大な期待は禁物だろう。しかしそれでも、過重な負担を沖縄に押しつけたままの首謀者が実は米国でなく日本政府であったとの事実がにじんでくると、潮平さんの怒りもうなずける。「米関係者に当たっていくと日本政府の論理が破綻していることが分かる。官僚主義の岩盤が厚い」と振り返り、辺野古埋め立てに関して菅義偉官房長官が放つ「粛々と進める」という冷たい言葉に対して翁長知事が「キャラウェイ高等弁務官と重なる」と今春発言した場面も紹介した。キャラウェイ氏は米軍統治下の沖縄で最高権力者とされた高等弁務官の一人。沖縄の自決権を「神話だ」と突き放した強権的姿勢が今も批判の的となる。

●翁長知事の国連演説に共感

 沖縄で辺野古基地反対の候補が勝つ選挙結果がいくら出ようと日本政府は一向に考慮しない。2012年、県議会はじめ41市町村すべてがオスプレイ配備への抗議決議を可決しても、配備反対県民大会が開催されても、それは無視される。翌年11月には沖縄選出の自民党国会議員5人が石破茂幹事長(当時)の横でうなだれる会見写真が流れた。力ずくで議員たちを新基地建設容認に変えさせた姿は、新たな琉球処分として県民には受け止められている。琉球処分とは、明治政府の下でなされた沖縄への強権的な廃藩置県のことだが、その主従関係は130年以上たっても変わらない。潮平さんの静かな語り口の中にも情念がほの見えてくる。

 法廷闘争を含め、国によって沖縄の尊厳が侵され続けている現実を前に潮平さんは「こういうことを許してしまうと沖縄に十字架を背負わせてしまう。子や孫にみじめな思いをさせてしまう」と未来への責任も込めて脱却を誓う。違憲性を問う訴訟は国がことごとく勝ってきた。県も経緯は分かっている。国内外の世論に訴える意図があるのだ。翁長知事が今年9月、ジュネーブで開かれた国連人権理事会で沖縄に基地が集中している不条理を説き、2分間の持ち時間の中で「私たちは自己決定権や人権をないがしろにされています。自国民の自由、平等、人権、民主主義すら守れない国が、どうして世界の国々とそれらの価値観を、共有することなどできるでしょうか」と演説し、新基地建設を止める覚悟を示した。同行取材した潮平さんは共感を込めてそうした言葉を挙げながら、さらに自分の思いを翁長知事の言葉と重ねて会場に問いかける。「日本は民主主義国家なのか。自由、平等、人権……。そこに沖縄は入っているのか。日本は国家としての品格を持たなければいけない」

 翁長知事は保守本流の政治家である。日米安保も容認しているにもかかわらず、中国との交流を促進する様子を見て「中国の手先」「共産主義者」などと一方的な情報が流されている。那覇市長時代の2013年1月、「東京行動隊」の共同代表として先頭に立ち、オスプレイ配備反対の銀座デモを行進中、沿道に待ち構える日の丸の一団から「売国奴」の罵声が飛んで驚いたという。国策に少しでも反対する者には容赦がない。日本という国は、危険な水域に来ている。

 潮平さんも、ちょっとした失敗をしてしまった。ジュネーブで併せて開かれた国際シンポジウムの席上、提出用文書で「沖縄はアメリカの領土でなければ、アメリカの植民地でもありません」となっていた後半部分を「日本の領土でもありません」と発言してしまったのだ。単なる言い間違い。しかし、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が発達する昨今では、勢いで発信する匿名情報が動画を“証拠”にして「売国宣言だ」と拡散してしまう。この日の集会でも、潮平さんは参加者に対して写真や録音、ネットでの発信に慎重さを求めざるをえなかった。

●軍事過信の安倍政権に異議

 各種世論調査によれば、日本での安保容認は8割にも上るとされる。しかし、「その前提として本土メディアの調査方法をよく見てほしい」と潮平さんはクギを刺す。イエスかノーの二者択一になっていないかとの指摘である。沖縄では、平和友好条約にする、多国間安保にする、など五つ程度の幅広い選択肢を設けて民意をすくいとっている。同様に、「普天間基地の解決案も安保もオール・アオ・ナッシングではない」と続け、「これが唯一の解決策」と強引に突き進めると迷走しかねないと懸念した。

 平和学の概念を引き合いに、安倍政権の「積極的平和主義」へ根源的疑問も呈する。「直接的暴力」だけでなく、差別や偏見、宗教対立、民族対立などいわゆる「構造的暴力」のない状態としての「永続的平和」を追求することこそが真の積極的平和主義ではないかと。安倍晋三首相の進める「積極的平和主義」は冷戦時のように仮想敵をつくり、軍備をエスカレートさせていく。「それでは安全、安心を手にできない。『安全保障のジレンマ』に陥る」と顔を曇らせ、現実の国際状況が、政治学者も含めて軍事のとりこになっている悲劇を嘆いた。「安全保障観の再検討を」。これが琉球新報編集局長して、また一沖縄県人として、そして一人の人間としての熱い思いだ。

 軍事を過信した政策が各国で「常識」となり、異論を唱えると「一国平和主義者」と批判される。しかし潮平さんは、最後にこう結んで決意を表した。「平和国家として日本が果たしてきた矜持をなげうってしまうのは、時代に逆行している」。今夏、作家の百田尚樹氏は、その報道姿勢を敵視し「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と琉球新報と沖縄タイムスを攻撃した。潮平さんは「読者、県民に支えられている」と動じない。本土からの購読者がジワリと増えていることも力になっているようだ。軍事の要石ではなく平和の懸け橋として、負託に応える決意を感じた。沖縄から、日本の姿はよく見える。

*写真=沖縄がまた「捨て石」になる辺野古新基地建設に反対する潮平芳和さん


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