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今こそ反戦・労働運動の先達から学ぼう!
 〜志真斗美恵「芝寛 ある時代の上海・東京」を読む

                    牧子嘉丸

「芝寛」と書いて「しばひろし」と読み、戦後の一時期労働運動や日中友好運動に 献身した人物であることを知る人は少ないだろう。まして、この人が戦前京浜労働者 グループを組織し、また政府内で起こった「企画院事件」に連座し逮捕・投獄された 事実を知る人はさらにまれだろう。

 そもそも戦時下の労働運動の象徴である「京浜グループ」や人民戦線の動きのなかで 捏造された「企画院事件」そのものが歴史から消え去られている。

 この本は戦争に突き進む日本を変えようとした一人の青年芝寛(写真)に焦点を当てて、戦前・ 戦中の闘いを描いたものである。

 この芝寛の思想的ルーツは東亜同文書院で育まれた友情と学問とにある。戦後、侵略者 手先を養成する機関と見られてきたが、実は日中友好と反戦思想を高めた学校でもあった。

 上海にあった魯迅がこの書院での講演で、若き五人の学徒を生き埋めにして殺害した 国民党を涙を浮かべて告発したことや、5年後その魯迅の死去に際して、書院の学生達が 「打倒帝国主義」の中国人学生のシュプレヒコールに共感しつつ、弔意をこめて見送った 感動的なエピソードがつづられている。

 本書の最大の特色は著者に託された遺稿「豊多摩刑務所の伊藤律」であろう。伊藤律を 中国特務機関に幽閉したことは重大な人権侵害であることは無論だが、帰国後の伊藤証言が すべて真実であるかどうか。芝は伊藤をスパイとは断定していないが、その言動は指導的 立場の人間としては革命的警戒心に欠けていたのではなかったか、という指摘は妥当だろう。

 階級的裏切り者か、あるいは革命的英雄か、という単純な二者択一ではなく、正しく検証 していくべきだというのがその意向だったのだろう。そして、その意を汲み取るべく著者に 託したのであろう。芝寛の最後の判断は正しかった。また、その遺志を受け継ぎ、上海まで 足を伸ばして労作をものした著者をねぎらいたい。様々に話題を呼ぶであろう。

 今、アベの戦争立法粉砕のためにあらゆる労働者・市民・学生が立ち上がっている。こう したなか、現在とは比較にならぬほど戦前の野蛮な治安維持法のもとでも闘った多くの青年 達がいたことは、私達を鼓舞し大きな勇気を与えてくれる。

 まさに本書の訴えは、芝が好んだハイネの詩の一節「いつも太鼓を鳴らしながら前進せよ」だ。

(1800円+税 発行=績文堂


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