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LNJ Logo 参議院選挙の結果を受けて〜前進する市民、後退する政治/黒鉄好
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黒鉄好@北海道です。

参院選の結果についての論評です。

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 参院選が終わった。公示前から自公与党の圧勝予測が流され、最後まで盛り上がりを欠いたままの選挙だった。インターネット利用の解禁も注目を集めたが、これも思ったほどの盛り上がりにならなかった。投票率は52.61%と史上3番目の低さに終わった。民主党政権崩壊後、各級選挙のたびに最低記録の更新が続いてきた流れを、今回の参院選も押しとどめることはできなかった。

 ●衆参ねじれから「民意と国会のねじれ」へ

 自公与党は過半数を確保。参院の全常任・特別委員会で委員長を出し、過半数を確保できる絶対安定多数に達した。自公のみで改憲の発議に必要な3分の2の議席は確保できなかったが、96条先行改憲派である日本維新の会、みんなの党とあわせれば3分の2を確保した。

2007年参院選以来続いてきた衆参「ねじれ」を筆者は悪いことだとは思っていなかった。むしろ「市民にとって悪いことが次々と決まっていくよりは何も決まらない方がベター」だという新たな民意のあり方として、当ブログは「ねじれ」を肯定的に評価してきた(「決められない政治からの脱却」を争点化したがっていたのが主に「1%」の側であったことがこれを物語っている)。そのねじれが解消するということは、要するに「1%」が「99%」の多数派を無視して何でも思い通りに決められるような体制が整ったことを意味する。しかし衆参ねじれは解消しても、別の4形で「ねじれ」は残る――民意と国会の「ねじれ」として。今後3年間は自覚ある市民にとって正念場になるだろう。この間、脱原発、反TPP、反改憲の動きを議席に結びつけられなかったことについては総括が必要だと筆者は考える。

 しかし、総体としては、自公は報道されているほど強くなかったというのが筆者の率直な感想だ。事前報道を見る限り、自公はもっと勝つと思っていたし、現に某週刊誌の事前予測は、自民だけで70議席を超えるとしていた(実際には自民は65議席)。自公の提灯持ちに終始したメディアの責任を追及しなければならない。

 確かに、自公に過半数を許した今回の選挙は結果として大変厳しいといえる。自民党は、現制度になってから最大の議席数を確保したが、非改選と合わせた単独過半数(改選72議席以上)には達しなかった。参議院で自民が単独過半数を確保したのは中曽根内閣当時の1986年が最後。このときは衆参同日選という特殊事情が大きく作用していた。

 得票率は自民34.7%、公明14.2%(いずれも選管確定)で合計しても48.9%。筆者の記憶では、参院選の得票率で自民が単独50%を超えたのは1983年が最後であり、今回も得票率単独過半数には遠く及ばなかった。自民党は世間で言われているほど強くはなく、依然として長期的低落傾向にある。勝利はひとえに「野党のだらしなさ」が原因である。

 ●暗闇に差した希望の光

 それでも筆者は、今回の選挙結果に多くの希望を見いだす。第1に、日本共産党が12年ぶりに選挙区で議席を確保。全体でも改選前3議席から8議席と東京都議選に続く躍進を見せたこと。第2に、明確な改憲勢力(自民・維新・みんな)の3分の2確保を阻止したこと(改憲派が公明・民主の一部と連携する可能性は残っているが、改憲派も1枚岩ではないという状況を作り出したこと)。第3に、沖縄で県民の反基地の意思を受けた野党統一候補(糸数慶子・沖縄社会大衆党委員長)が自民候補を退けたこと。そして第4に、東京で、日本共産党公認候補(吉良佳子候補)に加え、脱原発・反被曝の意思を明確にしている山本太郎候補が当選したことだ。

 吉良さんは、首都圏反原発連合が主催する金曜官邸前行動に欠かさず参加してきた。山本太郎さんも、福島に居住し続けることの危険性と福島からの住民避難、内部被曝からの住民保護を一貫して訴え続けた。この2候補が揃って当選したことは、官邸前金曜行動を初めとする反原発の市民の闘いを大いに励ますものだ。

 この間の反原発・反基地の闘いの中で、市民の多くが当選させたいと願っていた候補者の多くが当選を果たしたことは暗闇に差した一筋の光といえる。フラフラして使えない民主党議員より、市民と連携して政治のあり方をともに考え、行動できる議員を多く生み出せたことは、この間の多くの集会・デモなどによって培われてきた「草の根民主主義」が国政レベルに与えたよい影響として肯定的に評価すべきものだ。組織戦に強い自民、公明、共産各党に混じって、市民が力を増しつつあることを明らかにしたのが今回の選挙だった。

 山本太郎さんに対しては、「週刊新潮」や「自称経済学者」池田信夫氏などによるネガティブ・キャンペーンが行われたが不発に終わった。昨年の衆院総選挙出馬という実績があるとはいえ、66万票という山本太郎さんの得票数は驚愕すべきものだ。新党大地(52万3000票)、緑の党(45万7000票)、みどりの風(43万票)の各政党・政治団体の比例区得票数をも上回っている。

 今回、国政初挑戦の緑の党は、巷間噂されているところによれば、みどりの風との共闘の話も一時、持ち上がったようだ。双方の票は合計約90万。比例区で125万5000票の社民党が1議席を確保しており、共闘が実現していれば議席に手が届いた可能性がある。共闘が実現しなかったことがあらためて悔やまれる。

 ●象徴的選挙区での自民敗北

 大手メディアは自民党が岩手、沖縄以外の全1人区で勝利したことを華々しく伝えている。もちろんその事実は否定しないが、支配層の代弁機関である大手メディアは最も大切なことを伝えなかった。東日本大震災の被災地である岩手、米軍基地のほとんどが押しつけられている沖縄。象徴的な2つの場所で自民党公認候補が敗れたことは、震災復興と基地問題という「最も鋭い対決点」において自民党の政策が拒否されたことを意味する。争点隠しは通じなかったのだ。

 現在、東北被災地では「復興格差」が広がりつつある。巨大都市・仙台市を擁し独り勝ちの様相を強めつつある宮城、後れを取る岩手、原発事故のため復興どころかスタートラインにすら立てない福島の格差が明確になっているのだ。勝ち組の宮城にしても、潤っているのはゼネコンなど一部業界のみ。中小企業、自営業者、労働者には恩恵は及んでいない。村井知事が漁協の反対を押し切ってまで強行した「水産業特区」のせいで、漁業の支配権が漁民から企業に移ろうとしている。沖縄でも、普天間基地の県内たらい回しが認められる状況ではなくなっているが、自民党は県民の頭越しに県内「移設」を持ち出そうとしている。

 岩手と沖縄での自民党敗北は、他の地域とは政治的意味合いが異なる。犠牲の一方的押しつけを拒否する地方の民意が示された点において、この2つの野党勝利は画期的な意味がある。

 ●民主党の復権はあるか

 民主党政権が崩壊してから既に半年が経過、民主は昨年12月の衆院総選挙で既に十分すぎる審判を受けており、6月の都議選、そして今回の参院選と続く一連の敗北をどう評価すればいいのか。

 世間では、民主党の惨敗を歴代民主党政権の失政に求める意見が強く、インターネットを中心に「反日外交で国益を損ねた」(右派)、「大飯原発を再稼働するなど市民の要求にことごとく背いた」(左派など)と、左右両極から攻撃を受けている(筆者には「反日外交」の意味するところは理解できないが)。もちろん、それも一因には違いないが、そうした民主党政権の「失政批判」に対しては、「自民党政権に過去一度も失政はなかったのか」「地震国・日本に54基の原発という時限爆弾を仕掛けた自民党はなぜ失政批判を受けないのか」という疑問を容易に提起できる。民主党の敗因を単なる「失政批判」だけに求めることには無理がある。

 むしろ民主党の真の敗因は、主な支持基盤の中産階級が没落し富裕層と貧困層に2極化する日本社会そのものの中に潜んでいるように思われる。今回、自民党はブラック企業の代名詞である渡辺美樹・ワタミ前社長を比例区で公認するなど、かつての包括的国民政党の看板を投げ捨て、なりふり構わず「1%の党」を前面に打ち出す選挙戦を展開した。経営者政党の代表格・自民と労働者政党の代表格・共産が揃って躍進したことは、グローバル資本主義の深化によって2極化する日本社会の反映である。筆者のこの推測が正しければ、支持基盤である中産階級そのものが掘り崩される中での民主党再生の可能性はきわめて低いように思われる。

 ●選挙でのインターネット解禁の影響は?

 インターネット使用の解禁は選挙の大勢にほとんど影響を及ぼさなかった。解禁といっても、別にネット上から投票が可能になるわけではなく、単に政党・候補者が選挙期間中もネット上で政策を訴えられるようになったことと、政党・候補者以外でもメールを除くネット、SNS上で特定候補への支持を訴えることが可能になったという程度だからだ。ネット選挙の解禁でお祭りムードを盛り上げようとする動きも一部にあったが、プロブロガーやITジャーナリストなど、どちらかと言えば「盛り上がってくれないと困る」立場の人が職業的に煽っているのが中盤頃から見えてきた。

 ネット選挙が盛り上がらなかったのには理由がある。やや古くなるが、昨年9月、スイスに本部を置くインターネット普及推進団体「World Wide Web Foundation」が世界各国におけるWebの影響や充実度などを測定してランク付けした「Web Index」を発表している(参考記事 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120906/420947/)。その結果は大変興味深いもので、英語版のみだがこちらもネット上に掲載されている(http://thewebindex.org/data/all/webindex/)。

 調査結果を見ると、日本は総合点で20位。他の指標は上位の国々と比べても遜色がないのに、唯一"Political"(政治;ネットの政治への影響)という指標だけが際だって低く、全体の足を引っ張った。社会的・経済的にはネットが広く利用され、特に「コミュニケーション」の分野では80.19点という高得点をあげている(14位)のに対し、「政治」は42.62点。調査対象61カ国のうち30位と目立って悪くなっている。SNSやツイッター等、ネットを活用しての市民レベルでの交流は非常に活発でありながら、それが全く政治力に結びついていない日本のネットの特性を反映しており、筆者はこの調査結果をきわめて信頼性の高いものと考えている。日本では、インターネットが現実政治に影響力を行使できない勢力の隔離場所として機能しているような気がする。

 日本で現実政治に強い影響を与えているのは、地方の土建屋のオヤジ、企業経営者、信念も政策も空っぽなのに選挙にはやたら強い田舎首長などのグループで、典型的既得権益層だ。議員と握手したり、後援会長を務めたり、自分の業界にカネを落とすよう役所に陳情したり、自分の息子をどこそこの会社に入れろ、と政治家に要求したりするのが政治だと思っている。世の中が次第にネット時代になってきていることはうすうす感づいているものの、「そんなものはオレの仕事ではない」し、秘書か事務員を雇ってやらせるものだという感覚だ。このような層は強い政治力を持っているにもかかわらず、それがネットに表出することはほとんどない。こうした日本政治の実情を考えれば納得できる調査結果といえる。

 ちなみに、リンク先の調査結果を改めて見ると、日本と逆に、他の指標はそれほど高くないのに「政治」の項目だけ突出して得点が高いのがエジプトである。なるほど、フェイスブックでムバラク政権が倒れたといわれるだけのことはある。その後成立したモルシ政権がクーデターで倒れるなど、政情は落ち着かないが…。

 結果的に、ネット選挙を当選に結びつけられたのは、山本太郎さん1人ではないかと思われる。

 ●自民1強時代の中で

 自民党が「1強」として君臨し、それ以外はドングリの背比べのような弱小野党が並ぶ参院選後の政治風景のことを考えていて、筆者はふと、中国の政治体制を想起した。支配党の立場を保証されている巨大な中国共産党の他に、共産党では代表できない労働者階級内部の特殊な利害を代表するため、中国には共産党を補完する8つの衛星政党が認められており、民主諸党派と呼ばれる。参院選後の野党は、民主諸党派のような立場で巨大な支配党と対峙しなければならない。その困難な仕事を果たせる野党が日本共産党以外にあるだろうか。

 すでに何人かの識者が指摘しているように、今回の選挙は、民主党結党以来、支配層が目指してきた「保守2大政党体制」の終わりを告げるものとなった。55年体制に続く「96年体制」とでも呼ぶべきものの終わりとして、歴史に転換点を刻印した選挙と総括してよいだろう。再びよみがえった自民党による事実上の1党支配は、今後おおむね10年程度続くと筆者は予測している。

 私たちに課せられた最大の課題は、改憲を阻止し民主主義の基盤を守り抜くことである。改憲が現実の日程に上った場合、自覚した市民は今取り組んでいる運動を一時中断してでも改憲阻止の1点で共闘しなければならない。市民派議員が登場し、日本共産党が躍進したとしても、全体から見ればそれはほんの一部である。55年体制当時も自民1党支配だったが、当時は社会党など強力な野党が存在していた。それさえも存在しない中での自民1党支配の復活で、私たちを襲う苦難がどれだけ大きいか考えるだけでため息が出るが、そうとばかりも言っていられない。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
http://www3.ocn.ne.jp/~nakama06/

安全問題研究会サイト
http://www.geocities.jp/aichi200410/

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