本文の先頭へ
LNJ Logo レイバーネットTV第26号放送・テキスト版
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item TV26text
Status: published
View


以下は、2012年2月2日に放送された「レイバーネットTV」第26号のテキスト版です。アーカイブは以下でご覧になれます。http://www.ustream.tv/recorded/20167767

キャスター右:土屋 トカチさん
キャスター左:松元 ちえさん

松元:こんばんは。労働者の、労働者による、労働者のためのメディア、レイバーネットTVの時間がやってまいりました。キャスターの松元ちえです。

土屋:こんばんは。同じくキャスターの土屋トカチです。今日も2時間半ギッチリ詰まった内容をお送りいたします。今日の特集は、【川柳deレボリューション】。”文化のない闘いなんてありえない”をモットーにしてきたレイバーネットならではの企画になっております。川柳を、”おっさんくさい”だとか、”おばはんくさい”とかですね、加齢臭がひどすぎるとか、色んなふうに(笑)、よくないふうに思ってる方が多いかもしれませんけども、そんなことはありませんので、どうぞ楽しみに見てください。ということですけども、20時20分頃、ハプニングがなければ(笑)、無事放送が続ければお送りする予定ですので、お楽しみ、ということでございます。

松元:大丈夫でしょう。今のところね。

土屋:今日はわりと安定してる感じが。ワンポイント英会話ですけども。今日はこの後、ウェザーニュースという、とんでもない天気予報の会社が出てきますので、”天気予報”って英語でなんて言うのかな?っていうのを教えていただきたいんですけども。

松元:はい。天気は”Weather”。予報、とか予測する、というのが”Forecast”。なので、”Weather forecast”と言います。

土屋:天気予報テレビなんかで見るときは是非”ウェザーフォーキャス”と言いながら見ていただければと思います。(笑)

松元:今晩のレイバーネットTVは、新宿バンブースタジオからお送りしています。今日もたくさんの方がスタジオにお集まりです。スタジオの外からも、ご意見やご質問などお寄せください。ハッシュタグは#labornettvです。まずは今月のニュースダイジェストをお送りします。尾澤さん、お願いします。


【ニュースダイジェスト】

担当:尾澤 邦子さん

こんばんは。
1月24日、枝野幸男経済産業大臣は「経産省前テントひろば」に対し、「27日17時までに撤去せよ」という命令を出しました。
<映像:経産省前テントひろばの様子>
テントひろばは、昨年9月11日の経産省を取り囲む「人間の鎖」をきっかけに始まり、4ヶ月半の間に延べ1万5千人が訪れています。「経産省はテントの撤去ではなく、原発を撤去せよ」「再稼働するな」「放射能をまきちらした責任を取れ」など、経済産業省と経産相には抗議のファックス、電話、メールが殺到しました。
撤去命令期限の迫った27日夕方、テント前には怒りの市民たちが続々と集まってきました。メディア、警察官なども含め、周辺はあっという間に身動きできない状態でした。その後も人びとは増え続け、最終的に750人になりました。ニコニコ動画の生中継視聴者も1万人、マスコミの取材も多く、「撤去命令」は、逆にテントの存在を大きく知らせることになりました。2時間の集会では、女たち・牧場主など福島からの生の訴えが続きました。「福島は放射能地獄のまま。のうのうと暮らし責任をとらない東電幹部を絶対に許さない!」悲鳴に近い発言に共感と怒りの涙が拡がりました。
結局、この日経産省担当者はテントに姿を現しませんでした。抗議のネット署名は午後5時過ぎには2万9千をこえました。脱原発の気迫がテント撤去命令をはね返しました。

次は、JR不採用問題で国会マラソン・ハンストのニュースです。
<映像:中野勇人さん、東京新聞のコラム、ハンストの様子、国交省交渉>
「いま、毎日、男がひとり、国会の周りを朝から晩まで走り続けている。胸のゼッケンには『政府は約束を守れ!』と書かれてある。北海道北見市から出てきた中野勇人さん。1日38周、約50キロを走る。21日間走る。合計1047キロ。彼と一緒に国鉄を解雇され、JRに採用されなかった1047人、仲間の思いのたけを走り込む」と鎌田慧さんが「東京新聞」のコラムに書いています。JR不採用問題は、政治和解で2010年6月に解決したものの、約束したJR雇用はなく「ゼロ!」。これに怒る3人の被解雇者が行動を行っています。
中野さんは「JR不採用問題は『政治解決』したが、私たちがそれに応じたのは国交大臣がJR各社に真摯に採用を申し入れると約束したから。しかし実際には何もやらず雇用はゼロだった」「一人でもできることと思い、再び国会マラソンで訴えることにした。『約束を守らないと運動が続く』ということを政府に突きつけたい」と語っています。元国労東京闘争団の佐久間忠夫さんと佐賀闘争団の猪俣正秀さんは、国会前で交代で5日間のハンストを行っています。30日には弁護士・支援者ら10数人と国交省鉄道局を訪れ、政府の責任を強く迫りました。国会マラソン・ハンストは2月16日まで、午前9時から午後4時まで続きます。

次は、竪川河川敷公園からの野宿者排除についてのニュースです。
<映像:排除の様子、抗議集会デモの様子>
1月27日朝、江東区は多数のガードマン、作業員を動員して、多くの野宿者たちが生活する竪川河川敷公園をフェンスで封鎖するという暴挙に出ました。封鎖されたのは、すでに工事が終了した場所で、行政代執行の対象とは無関係です。
江東区土木部水辺と緑の課は「公園内にテント、小屋などを設置することを禁止する」と「2月3日までに撤去しろ」という「指示書」(警告書)を貼りめぐらせたのです。この一方的なやり方に説明を求めても沈黙。抗議する当事者、支援者をガードマン作業員らが暴力で排除。野宿者に数人のケガ人が出ました。
昨日午前11時から、江東区東陽公園で、封鎖に反対する抗議集会が開催されました。そのあと、区役所をぐるりと囲むデモ行進が行われました。平日の昼間にもかかわらず約100人が参加。「山崎区長出てこい!」「排除をやめろ!」の声を上げました。

以上、ニュースダイジェストをお伝えいたしました。

土屋:ハイ、尾澤さん、どうもありがとうございました。竪川の、ひどいですね。

尾澤:ひどいですね。

土屋:スカイツリーがちょっとチラチラ映像で映ってましたけどね。やっぱりスカイツリーができるから、その、野宿者を排除したいのかなあ、と思っちゃいますよね。

尾澤:でしょうね、きっとねえ。

土屋:観光資源を大事にしたいけど、野宿者の命は大事にしない、という、江東区の姿勢がよくわかりますね。ハイ続いては【不満★自慢】のコーナーです。


【不満★自慢】

右:ジョニーHさん
左:乱鬼龍さん


誰にだって不満はあるさ 特に仕事をしていれば
その不満 とんでもない 労働問題かもしれないぜ


ジョニー:不満自慢コーナーのお時間がやってまいりました。お相手は私ジョニーHと。

乱:川柳界の若手、乱鬼龍です。(拍手)

ジョニー:今日は普段の不満自慢というよりも、さっきのニュースね。ちょうど1月27日っていうのは、同じ日なんですよね。経産省のほうに僕は行ったので、その間に色々連絡があって、竪川がなんかやられてるって。

乱:タテカワ(=竪川)だよ。

ジョニー:タテカワなの?

乱:いや、カタカワって言わなかった今?

ジョニー:カタカワっつったっけ?失礼しましたどうも(笑)。今日は”木下昌明の今月の1本 不満自慢バージョン”になりそうなんですが。実は映画で荒川河川敷の、それこそ行政代執行みたいなのをテーマにした映画が2月4日から公開されるんですよね。今週ですよ。僕は試写会で観てきたんですけども、「荒川アンダーザブリッジ」、これでございます。面白いですよコレ。すごく気楽に観られるんですけど、よく考えるとその裏で、実際ああいうことも起きてると非常に腹立つんですが。江東区はどうも約束破ったみたいなんで。この「荒川アンダーザブリッジ」というのは実写版なんですけども、元々原作は漫画、ヤングガンガンという雑誌でかなりヒットした人気コミック漫画なんですけども。TBSテレビの深夜枠でアニメーションでやってたんですよ。それを今度実写版でやるというので。映画のほうはこういうやつですからまあ、ハッピーエンドになるんですけどもね。(笑)暴力も全然ないです。

土屋:警官が暴力ふるわないんだ。

ジョニー:はい。話し合いで決まっちゃうという。言っちゃいけないのかなコレ(笑)。ただその中の葛藤が面白いんですよ。元々、主役の青年が立ち退きのために行くんだけど、段々そこに住んでる人たちの心温かさみたいなのとかに触れて。でその荒川河川敷。「荒川アンダーザブリッジ」なので、「AUTB」と呼んでます。で、竪川なんで、「TUTB」になるんですね。「Occupy TUTB」と。そういう感じで。(笑)この辺の所を乱さん一句お願いします。

乱:即席で作りまして。
「竪川に ひとの命が 投げ出され」乱鬼龍(拍手)

(場内笑い)

ジョニー:一応、星なんです。

松元:(笑)かわいい〜!

ジョニー:たんぽぽじゃありません。この映画に出てくる星くん、山田孝之君がですね、演じている星くんっていうのにちょっとなりきって。星くんはロックやる人でですね、「ロックだぜ!」ってこう、やるんですね。その、「竪川アンダーザブリッジ」の主題歌。「涙のスターダスト・トレイン」という曲なんですけれども、それの替え歌。

土屋:ここにいる人は皆わかんないね。コレ。

ジョニー:いや、TV観てる人もわかんないですよ。だってこれから公開されるんですから。ただこの曲は、そろそろかかってきてるんで、”あ、あの曲なんだな”と。今日はちょっとアコースティックバージョンでやりますけど。歌ってみたいと思います。

「竪川アンダーザブリッジ 悪魔の行政代執行」 ジョニーH

河川敷に(オオオー) 住んでる天使に(オオオー)
冷たい仕打ち(オオオー) 世間は知らない(オオオー)
江東区課長は(オオオー) 約束破って(オオオー)
暴力使って(オオオー) 突然襲撃(オオオー)

乱暴しないで(オオオー) ゴミを投げないで(オオオー)
今すぐに会いに来て(オオオー) 一緒に歌おう(オオオー)
土地ころがしはいらない(オオオー) お金もいらない(オオオー)
ただ必要なのは 夜露しのげるテントだけ

素敵な笑顔 連れ去る退去命令 出ないといいのにな

悪魔の行政代執行 少年たちが
悪魔の行政代執行 真似しているぜ
悪魔の行政代執行 今すぐやめて
少年たちも一緒に 歌を 歌いたい

課長のポケットの中の(オオオー) 渡せなかった退去命令(オオオー)
それでいいんだぜ(オオオー) ドラマチックだぜ(オオオー)
暴力じゃなくて(オオオー) 差し入れならば(オオオー)
子どもも大人も 並んで歌い出す

素敵な笑顔 連れ去る退去命令 出ないといいのにな

アーアー アーアー

悪魔の行政代執行 君といた日々
悪魔の行政代執行 二度と戻れないぜ
悪魔の行政代執行 僕らの公園は
僕らの公園は そう 権力者のものじゃねえ

悪魔の行政代執行 君といた日々
悪魔の行政代執行 二度と戻れないぜ
悪魔の行政代執行 僕らの公園は
僕らの公園は そう 権力者のものじゃねえ

(拍手)

ジョニー:この格好で、次は川柳なんですが。川柳コーナーの歌を歌いたいと思いますが。この格好でいいですかね?(笑)

乱:うんいいんだよ。

松元:カメラがバシバシと。記者会見みたい(笑)。

ジョニー:いいですか?テーマ「牙」ですからね。一応星くん、ちょっと星屑みたいに。予算がないもんですから。カンパよろしくお願いします。(笑)

松元:(笑)手作り感覚がいいですね。

ジョニー:じゃあ「歌う川柳」という。次のコーナーのテーマ曲をここで歌います。乱さんよろしいでしょうか。

乱:ハイハイ。キバってやってください。

ジョニー:はいありがとうございます(笑)。

「歌う川柳」 ジョニーH

明後日はあしたの明日だけれど
今日はきのうの明日だから
今日にこだわり ひとひねり

ひぃ・ふぅ・みぃ・よ いつつで 脱ぐと
さん・し・ご・ろく ななつで 吐いて
にぃ・さん・しぃ・ご で 気持ちこぼれた

五・七・五の 心の奥の 五・七・五の 静かな解放
五・七・五の 小さな世界 五・七・五の 大きな発信

川柳で ふれあう 川柳で のりきる
川柳で 楽しむ 川柳で 歌う

おとといはきのうの昨日だけれど
あしたは昨日のあさってだから
あしたに託して ひとひねり

ひぃ・ふぅ・みぃ・よ いつつの 川と
さん・し・ご・ろく ななつの 風で
にぃ・さん・しぃ・ご で 柳の姿

五・七・五の 心の奥の 五・七・五の 静かな解放
五・七・五の 小さな世界 五・七・五の 大きな発信

川柳で 気づく 川柳で 怒る
川柳で 笑う 川柳で 歌う

川柳で 気づく 川柳で 怒る
川柳で 笑う 川柳で 歌う

(拍手)

ジョニー:ちょっと形とあわないかもしれませんが(笑)。次は川柳コーナーです。お相手はジョニーHと。

乱:乱鬼龍でしたー。


ちょっとだけ教えて 小さな声でいいからさ
もしかしたらもしかして ひょっとしたらひょっとして 解決するかもしれないぜ


ジョニー:不満自慢のコーナーでした〜。(拍手)

松元:はい、ジョニーさん乱さんありがとうございました〜。


【特集 川柳 de レボリューション】

ゲスト:高鶴 礼子 さん

土屋:今日の特集は、川柳界のジャンヌ・ダルクと呼ばれている、これでよろしいんですかね?ご紹介は。(笑)高鶴礼子さんにおこしいただいております。こんばんは。

松元:こんばんは。

高鶴:こんばんは。(拍手)レイバーネットTVをご覧の皆様、初めまして。高鶴礼子です。よろしくお願いします。

松元:今日は、「あなたにもできる 川柳入門講座 川柳で変わり 変えよう」ということで。私、ないんですけど。川柳書いたこと。なんかおやじくさくて…ってね、さっき言ってたけど。なんかおやじくさくてやだな…って(笑)。

土屋:僕は台本に書いてあったから言っただけで、心から思ってるわけではないです。

松元:すみません私が書きました(笑)。っていう印象はぬぐえないんですけども、多分乱さんがいつも出てるからだと思うんですけど。(笑)

土屋:若手だよ?でもね。

松元:でも高鶴さんに今日は色々お聞きしようと思って、楽しみに来ました。

土屋:どのようなことを今日は?

高鶴:すみません。最初にちょっと宣伝で。私はこういう、「NOEMA NOESIS(ノエマ ノエシス)」という川柳誌をやっています。

土屋:ノエマノエシス、というのは、どういう意味なんですか?

高鶴:ノエマ、と、ノエシス、の2語で。これは「意識」という意味です。意識には2つ種類があって、対象としての意識が「ノエマ」で、作用としての意識が「ノエシス」。あんまり詳しく説明するとなんか引かれちゃうので(笑)この程度にしておきます。でも、句を書くのは意識の産物ですから、意識について考える、意識を言語化する、これが川柳を書くっていう行為なんですね。それで自分が結社を立ち上げる時に「ノエマ ノエシス」っていう名前にしました。それでまず、今日はご投句もいただいてます。出させていただいた題は「牙」という題です。この後半に、皆さんにいただきましたお作品、全部で60句だったそうなんですけれども、これについて1句1句、全部公表させていただきたいと思います。まず一番最初に、私が思う川柳について、のお話を、ほんの少しだけさせていただきたいと思います。さっきなんか川柳はおやじくさいっていう話もでましたけど。(笑)

土屋:それは台本で。私は全然思ってないですよ。

松元:え〜?私思ってる(笑)。

高鶴:いや、おやじくさくていいんです。

松元:ええ!そうなんですか!?

高鶴:おばさんくさくてもいいんです。で、恋に燃えてる乙女くさくてもいいんです。でも、忘れちゃいけないことが、一つだけあるんです。おじさんでもいいし、おばさんでもいいし、恋する乙女、少年少女でもいいんですけれども、忘れちゃいけないことがあって、何かっていったら、それは、”その中に、私がいるかどうか”ってことなんです。高鶴の考える川柳は、”川柳とは、17音字の人間諷詠”、これが私の定義です。17音字、5・7・5という、枠組みを持った定型の詩なんですけれども、その中で人間を描く。色んな人間がいますよね。どんな人間を描いてもいいんですけれども、”私”がいないと、魅力的な川柳と言えないんじゃないか、というのが、私の立場です。これちょっと説明がいるんです。”私”を書いてください、っていうと、じゃあ自分のことばっかりを題材にして書かなくちゃいけないのか?っていうふうに誤解なさる方がいらっしゃいます。私が思う”私”を書く、っていうのは違うんです。”私の視点で書く”と言い換えればいいでしょうか。私自身の視点がないと、これは誰が書いても同じ句になってしまいます。それだったらわざわざ、例えばちえさんやトカチさんが、川柳を書かれる必要ってないじゃないですか。ちえさんが書いたら、ちえさんの句であるべきですよね。トカチさんが書かれたら、トカチさんの句であるべきですよね。”私の視点”が入ってるかどうか、という所がポイントです。世界、生きている限り、色んなことを皆さん体験されると思うんです。色んなことに出会われて、それでそれに伴って色んな感情を抱かれる。悲しいこともあるでしょう。腹の立つこともあるでしょう。なんかおかしいんじゃないか!?っていうようなことだってあるじゃないですか。それを書く時に、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の頭で考えて、自分の心で受け止めてるかどうか、っていう検証が絶対いるんです。自分の目で見ていると思っても、ひょっとしたら、権力の側にいる人が見せようと思っているものを見せられているだけじゃないか?とか。自分の耳で聞いてるつもりでいても、聞かせようとしていることを、たまたま耳にしているだけじゃないか。自分で考えてるつもりでも、誘導されてるんじゃないか。このタイミングでこのニュースがリークされたのって、なんか意味があるんじゃないか?って、そういう検証を、立ち止まって考えることが、絶対これ必要だと思うんですね。そのためには、色々ある対象、書こうとするものを、まず自分で考える。さっき川柳のソングの中に、前一度、こちらのレイバーネットさんで、川柳教室ってやらせていただいた時に、私が「川柳の3つの大事」っていうのをお話したんです。「脱ぐ」「吐く」「こぼれる」っていうのが高鶴礼子の言う川柳の3つの大事だったんですけど、それちゃんと歌詞の中に入れていただいてあって。

土屋:優秀な生徒ですね。(笑)

高鶴:ありがとうございます。あれすごくなんかうれしかったんですけれども。ちゃんとご理解も的を射たもので。その中の一つの「吐く」ってことにポイントを絞ってお話したいと思います。

松元:川柳って「吐く」っていうんですよね。書くって言わないでね。

高鶴:そうなんです。川柳を「吐く」っていう言い方は、これはもう大昔から、っていったらなんですけども、昔々からずっと川柳を書くことは「吐く」っていう言い方をしてきたんですね。例えば、句会なんかで題が出ていて、1つの題に対して2句出してくださいという時に「ニクバキ」っていうような言い方をする結社がまだ残っている。

松元:食べる肉を思い浮かべてしまう(笑)。

高鶴:「二句」「吐く」と書いて「二句吐き」なんですけどね。そういう結社もあるぐらいなんですけれども、私はこの「吐く」という言葉に、1つ新しい意味を加えたいと思います。それは、「吐く」からには、まず「飲み込まなくちゃいけない」、ということです。これは当り前ですね。ゲーって吐く時に、何もなければ吐けません。

松元:(笑)

土屋:もう胃液しか出ない。(笑)

高鶴:そうです。書こうとする対象を、まず飲み込む。自分のお腹の中に飲み込むんです。自分のお腹の中ですよ。人のお腹に飲んでもらうんじゃないんですよ。自分の中で飲んで、それをよーく消化して、吐き戻す、これが川柳を書く、っていう作業なんですね。つまり何が言いたいか。材料のまま、ドーンと置いただけでは作品にはならないよ、ってことなんです。特に、こういうその社会的な題材を扱うことをやりたい、って思ってらっしゃる方には、ここちょっと気をつけなくちゃいけないポイントがあるんですね。正しいこと、正しいと自分が思うこと、これを書いたらば、何でもいい作品になるか、ったらそれは違うんです。集会なんかのスピーチではそれオッケーなんです。論文書くときもオッケーなんです。意見陳述にはオッケーなんですけど、川柳は文芸です。文学です。芸が要るんです。だから、何を書くかは大事だけれども、いかに書くかも大事、ってことですね。

松元:そうですね。そこが難しそうですね。

高鶴:そうなんです。そういうことで、社会のことについて句を書く、これは大事です。さっき”私”って言いましたけども、視点となる、自分の主体っていう”私”自身も、一人じゃないんですよ。例えば私を例にとってみれば、母としての私、います。娘としての私もいます。妻としての私、女としての私、人間としての私、色んな私、いますよね。人間としての私が書こうとした時に出てくる題材が、”社会”ていう位置づけだと思うんですけれども。じゃ、社会を書く時っていうのは、どういうふうなことに気をつけたらいいかっていうと、これちょっと残念ながら今新聞などの時事川柳っていう名前で呼ばれている川柳によく見受けられることなんですけれども、今読んだらわかるんだけれども、果たしてじゃあ1ヵ月後、半年後、2年後、3年後、10年後、100年後に読んで、わかるだろうか?っていうふうにちょっと思わせられるような作品が、残念ながら見受けられるんですね。

松元:トレンディじゃダメだ、ってことですかね?

高鶴:いや、それもちょっと語弊のある言い方なんですけども。トレンディで十分いいんですけども、そのトレンドが、ほんの一瞬のトレンドじゃなくて、100年通じる、200年通じるトレンドで書いて欲しい、っていうことなんです。

松元:難しいなあ。(笑)

高鶴:ほんまもんの社会詠というのは、高鶴が考えるほんまもんの社会詠っていうのは、賞味期限そんなに短くないです。なんで賞味期限短くなっちゃうかっていうと、上っ面のことに目くらましをさせられて、そこで書いちゃってるからなんですよ。上っ面じゃないんですよ、私たちが書くべきは。作品化するべきは。ちゃんと本質まで掘っていって、そこで書いた句というのは、寿命が長いです。

土屋:川柳だけの話じゃない感じがしますね。

高鶴:そうです、そうですか。

松元:ツイッターでも「高鶴さんものすごく哲学的」というコメントが入ってますけれども。(笑)

高鶴:うわー、そうですか。では。高鶴の考える、これぞほんまもんの社会絵だぞ、っていうところの句を何句かご紹介したいと思います。

松元:是非。見本を。

高鶴:はい。ではまず。

「痛恨の六日九日十五日」 十善寺心太

高鶴:もう一発でおわかりいただけると思うんですが。

松元:あ、そうか。すみませんおわかりいただけませんでした(笑)。

高鶴:(笑)句として見た時に、めちゃめちゃインパクトがありますよね。何故かっていったら、日付が3つも重なってません?「六日九日十五日」。言わずと知れた、これは一体何のことかと言ったら、1945年の8月の、6日であり、9日であり、15日であるという。日本の歴史の中に残された大きな足跡、これを書いた句なわけですね。書き手が自由に使える部分っていうのは、上(かみ)語だけなんです。上の5音字のみなんです。そこにこの十善寺心太さんは、「痛恨の」っていう言葉を置かれました。ちょっとね、比べてみて、考えてもらいたいんですよ。例えばこれ、こういう文になってたらどうでしょう。「思い出す 六日九日十五日」。

土屋:なんか、遠い、感じがしますね。むかーしのような。

高鶴:そうそう。うん。「六日九日十五日」っていうインパクトがあるんでね、そう悪い、まずい句ではないんですけど、「思い出す」って書いた場合と、「痛恨の」って書いた場合では、もう言葉の強さが違うってことをまず感じていただけると思います。それからもう一つ。ここを声を大にして言いたいんですけれども。「痛恨の」っていう言葉が持つニュアンス。これを感じ取ってください。皆さん、どういう時に「痛恨の」って言葉使われますか。”ああ痛恨のエラーだった”とかですね、”痛恨事だ”って時に使いません?つまり、「痛恨の」っていう言葉には、自分自身がもうちょっと何とかできなかっただろうか、自分自身にもあの出来事に対して責任があるんだ、っていうニュアンスが込められてるんです。これが「思い出す」っていう単なる回顧と、大きく違う所ですね。社会詠を書く時は是非、この位置を忘れないで下さい。

松元:でも「思い出す」だと、例えば自分から見た時の色んな、あの3日間の思い出、色々なことがあるんだけれども、っていう意味で「思い出す」を使ってもいいってことなんですか?

高鶴:そうなんです。別に使うのはいいんです。でも句として、どっちのほうが私の胸に響いてくるか、っていったらやっぱり「痛恨の」のほうですね。「そっちのけ」じゃダメなんです。色んなことありますよね。例えばさっきニュース出ました、色々。でも全ての出来事、私たちも社会の一員ですから、私たちにも責任があるんです。その立ち位置を逃してしまうと、人の事に対して、人に対して単に文句言ってるだけになってしまう。そうなってしまうと、社会詠は単なる悪口になってしまいます。自分をそっちのけにした批判は、ほんまもんの社会詠とは言えないんじゃないかと。これがまず私の社会詠に対するスタンスです。2句目いきましょう。

「平成七年一月十七日 裂ける」 時実新子

高鶴:これは。はい、そうですね。まだ私たちはあの時点から近い所にいますから、歴史の地点として。阪神淡路大震災です。時実新子の句です。これも、「平成七年一月十七日」、ここまで全部日付だけです。作者が使えるのは、一番下の3音字のみ。で、多分、100年経ち、200年経ち、すると、平成七年一月十七日が一体何の日であったか、っていうのは忘れていかれると思うんです。恐らく。知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らない、みたいな、そんな出来事になると思うんですけども、この句はめちゃめちゃインパクトがあると思いませんか?多分、100年後にこの句を読んだ人が、”あれ?平成七年一月十七日って何があったのかな?”ってすぐにはわかんなかったとしても、多分この句のインパクトにつられて、調べてくれると思うんです。辞書をひかなくちゃわかんないような言葉を使うな、っていうふうにご指導される方もいらっしゃるんですけども、私はそうは思わないんです。「辞書をひかせるような句を書け」と逆に言いたい。読んだ人が調べる気になるようなインパクトを残せ、っていう、それが私の立場なんですね。この時実新子の句も非常にインパクトがあります。「一月十七日」と「裂ける」の間に置かれた一音字。ここに全てがこもってるんですね。

会場:5・7・5じゃないですけど、いいんですか?

高鶴:はい。5・7・5は基調です。はみ出す必然性がある時は、はみ出していい、というのが私の考え方です。全ては、ちゃんと必然性が伝わるかどうか、です。必然性もないのに、はみ出してはいけない、ってことですね。では次の2句いきましょう。

「母ちゃんと呼ぶまでわが子とは見えず」 馬場木公
「帰らない子へ泣き帰った子へも泣き」 馬場木公

高鶴:おわかりいただけると思うんですよ。誰かが向こうからやってくるんですね。”え?どこの子だろう?なんかぼろぼろになって、随分な格好してるな…”と思って見てたら、その子が”母ちゃん”って呼んだ。”え!お前だったのか!”というのが1句目ですよね。で2句目。”よかったよかった、よく帰ってきてくれた”って。”あの子は帰ってこない。どうしてるんだろう?大丈夫だろうか?”って帰らない子へ泣いて、帰ってきた子に対しては、”よくぞお前帰ってきたぞ”って泣いてるんです。この、馬場さんが、この2句を書かれたのは、1句目と同じ事件をモチーフとされておられます。1945年8月に起こった原爆の惨禍。これがこの句の材源になってるんですね。でも、ちょっと考えてみてください。これってひょっとして、2011年3月11日に起こった、あの出来事に通じませんか?”あの出来事のことを読んだ句だ”って言って、通じませんか?私通じると思います。「母ちゃんと呼ぶまでわが子とは見えず」って、そんな状況で帰ってきた子って、いたんじゃないですかね。あの大津波で帰れない子と、帰った子がいた。そういう子どもたちを持った親はきっと、「帰らない子へ泣き帰った子へも泣き」って、こういう状況、あったんじゃないですかね。つまり何が言いたいか。今さっき言ったことです。ほんまもんの社会絵っていうのは、賞味期限短くないんです。そんな1週間や、2年やそこらじゃないんです。それは何故か。これは馬場さんが、上っ面で、”津波が来た”とか、”原爆が落ちた”とか、そういう上っ面のとこで書いてないからなんです。彼が書いたのは何か。親の哀しみですよ。親の心ですよ。そこまで下りていって、掘っていって書いてるから、寿命の長い、ほんまもんの、人の心に届く社会絵になっている、っていうことなんです。はい、続けましょう。次です。

「カナカナよ青年のまま墓の下」 河内さい子
「夕立が欲しいわたしも土も病む」 河内さい子

高鶴:河内さい子さん。この方も広島在住。これも原爆のことを書かれた句です。さっきの馬場さんの句と、ちょっと違いますね。こちらは随分文学的に消化されています。叙情が入っています。でも叙情が入っていて、叙情っていうのは、入れるとちょっと弱くなっちゃう、っていうことがあるんですけれども、ちっとも弱まっていません。例えば1句目。「青年のまま墓の下」。天寿を全うした死ではない、ってことが、ここにちゃんと書き込まれています。「カナカナ」、カナカナ…って鳴いているね。それが場面の背景になってるんですね。「青年のまま墓の下」。天寿を全うした死ではないということをしっかりと、そのものズバリじゃない書き方で書いています。2句目。「夕立が欲しい」っていう気分、なんかわかりませんか?もうザーッて降ってきて欲しいんです。私の今、全部洗い流して欲しい、みたいな、そんな心境ですね。それがこの上の、前半部分でよーく出ています。で、次なんです。「わたしも土も病む」。私も病んでるんです。ほら、原爆の後遺症で、なんて、そんなそのものズバリの言葉、書いてないでしょう?でもちゃんとわかりますね。それから、「土も病む」。ここの所がポイントです。「土も病む」、放射能害ということがしっかりと、そのものズバリじゃない言葉で読んであります。川柳は「吐く」と言います。吐くからには、よーく対象を読み込んで消化しないといけないってことを、冒頭に申しました。これがそのお手本です。よーく消化していると思います。そのものズバリの言葉じゃないですね。次へいきましょう。

「先頭を行くなと自衛隊の母」 大石鶴子

高鶴:大石鶴子さんがこの句を書いたのは、国会でPKO法案が審議されていた頃でした。だからだいぶん前ですね。平成8年か9年か、その辺りだったと思います。で、まあ結局その後、その時は否決されたんですけど、その後可決されて今自衛隊海外派遣の道が開かれてしまってるわけなんですけれども。なんで「先頭を行くな」って言ってるかっていうとかは説明要らないと思うんですね。なんでかってったら先頭だと危ないからですよ。鉄砲の弾でも一番先に飛んでくるからなんです。「先頭を行くなと自衛隊の母」と言ってるわけなんですけども。自衛隊の海外派遣に対しては、反対の立場をとる方と、賛成の立場をとる方が、日本の中にはおられると思います。でも、この句が持っている真実、に対しては、自衛隊の海外派遣賛成だよ、っていう立場をとっている人も、反対できないと思うんです。何故か。親の真実。母の真実がここには描かれているからなんですね。こんなふうに、主義主張を超えて、共感を呼ぶ句っていうのはなかなかないと思います。同じ主義を持っている人同士の間では、理解されやすいんです。でもそれは、ほんまもんとは言い難いですね。立場の違う人の心に届いてこそ、できます。今日の副題、【川柳deレボリューション】ってなってますね。革命ってそういうことじゃないですかね(笑)。仲間内だけに通じる句じゃなくって、立場の全然違う人に対しても、”おっ!ちょっと待てよ”ってちゃんとこう立ち止まってもらえる、そんな句が書ければ、素敵だと思います。今の句の後日談を言いたいですね。実はですね、2010年に世界一周クルーズの中で川柳講座をやるっていうお仕事をいただいて、私世界一周クルーズの船に乗らせていただいたんですね。そこでもこの「先頭を行くなと自衛隊の母」の句をご紹介したんです。大体、川柳やりたくて豪華客船に乗る人っていませんから。(笑)

土屋:相当金余ってる感じですね。

高鶴:そうなんです(笑)。えらい高いお金を出されるんです。でまあ、”あんまりお前ムキになって川柳のこと喋ってくんなよ。とにかく楽しけりゃいいんだから”ってわたしのことを慮って送り出してくださった人がいたんですけど、”いや、やっぱりいつもの調子でやんないと私が行く意味ないだろう!”と思って、こういう調子でやったんです。で、さっきの句に対してもこういう講釈をしたんですね。したら、船を降りてしばらく経ったら、一通の手紙が届いたんです。”あれ?何だろう?”と思ったら、その時に川柳講座を受けた方からお手紙が来て。”実は、僕の息子は自衛隊員で、この度、ジブチでの海賊掃討作戦に参加することになっていたんです。息子が日本を発つ時に、あの時教えていただいたことを思い出して、大石鶴子さんの句をもじって、「先頭を行くなと自衛隊の父」と言って送り出したんです。そうしたら、この度息子がやっと帰ってきました。あの句を、そうやって自分が言って、息子を送り出したから、息子が無事に帰ってこれたのかもしれないなんて、そんなふうに思いました。”って仰っておられました。彼は自衛隊員の父です。自衛隊に対して否定的なご意見は、多分持っておられないと思うんですよ。でもその人が、やっぱり大石鶴子さんの句に共感されたんですね。このことの意味は何だろう?っていう。そこなんですね。やっぱり、立場の違う人の心に入っていって、”ああ、その通りだ”って思わせてこそ、川柳っていう文芸の価値っていうのはあるんじゃないかって。そんなふうに思います。次です。

「潔い死は選ばずに蛇は這う」 石垣 健

高鶴:この句の前景、前の景色。前景に書かれているのは、生に執着をして、死を選ぶことなく這う蛇、なんですね。這うことを選んだ蛇なんです。這い続けている蛇なんです。蛇のことが書いてありますけれども、多分読んでいただいておわかりのように、これは、裏っ側に、字面を超えて立ち上がってくる何かがあるんです。つまり、ここに書かれている蛇は、比喩として働いている。メタファーなんですね。色んな事が読めます。例えば大災害の後、何だか自分が生き残っているのが申し訳ないような気がしたとか。戦争で、仲間は皆戦死したのに、自分だけが生きて帰ってきたことを申し訳なく思った。忸怩たる思いで捉える、みたいな。そういう体験談、私たちよく聞くと思うんですけれども。そういうことを書いた句、っていう。忸怩たる自分の心を書いた。それでもやっぱり授けられた命、助かった命、無駄にするわけにいかないわけですね。それを一生懸命生きている。でも生きている中で、やっぱり複雑な思いっていうのは消えないわけですよね。そういうことを書いた作品、というふうに読めます。「潔い死は選ば」なかった、っていう所で止まると、それで終わるんです。「蛇は這う」の強さを見てください。これポイントです。後で皆さんの作品を公表する時にも、同じことを申し上げたいと思います。現実の指摘だけでは弱いんです。ということです。では次です。次は、私の大好きな鶴彬の作品です。鶴彬の作品を5句ですね。(映像では)スラッシュが入ってますけれども、スラッシュは改行の印です。だからこれは3行書きだったわけです。

「これしきの金に
主義!
一つ売り 二つ売り」 鶴 彬

高鶴:もう、実感として、共感していただけませんか。”これしきの金に俺は自分の主義を売り渡すのか”っていうことですね。でも、そうは思ってみても、これしきの金がなければ、立ち行かない生活。生活の逼迫。それを、こんだけ激しく書いてるんです。これだけ書けば、どれだけの思いがあるか、その生活の逼迫に対して、しっかり読む人に伝わります。2句目。

「どてっ腹割れば俺いらのものばかり」 鶴 彬

高鶴:”俺たちをこき使うお前たちのどてっ腹を割ったら、みーんな俺たちから毟り取ったもんばっかりじゃないか”っていうことを鶴彬は言ってるわけです。非常に直接的な言葉で直截です。文学的消化は1句目に比べれば低いです、度合いが。でもそのぶんすごく激しいでしょ。”みーんな俺たちから毟り取ったもんばっかじゃないか!”っていう、そういう激しい訴えがここにはあります。

松元:今の労働者にも通じるところがありますよね。

高鶴:ありますよね。鶴彬がこれを書いたのは昭和4年です。今から一体何十年前でしょう。

土屋:何も変わってない(笑)。

松元:っていう感じですよねえ。

高鶴:1句目は昭和9年です。こんだけ長生きするんですよ。何故か。鶴彬が本質を書いてるからです。3句目いきましょう。

「首を縊るさへ
地主の
持山である」 鶴 彬

高鶴:どうにもこうにも立ち行かなくなって、食べていけなくなって、首をくくることを決心したんですね。で、首をくくりに行くわけです、山へ。ところがその山、その首をくくる場所すらも、自分をそういう目に追いやった地主の持ち山である。搾取の構造に対して鶴彬は物申してるんですね。これ、現状を書いてるんですけど、現状を書くことが問題提起になってますでしょ。だからいいんです。現状を書くとこで止まってないんです。言葉の激しさ、強さ。それでもって、この句は問題提起になっている、ってことです。次です。

「ざん壕で読む妹を売る手紙」 鶴 彬

高鶴:”今度お前の妹を売ることになった。”こういう手紙は、どこで読んだってつらいんです。夜、寝床で読んでも、朝ごはんの食卓で読んでもつらいんです。でもそれを、塹壕で読むと設定したことによって、もっとつらくなる。”何とかしたい”っていう思い。それから”自分が無力である”っていうふうに思ったって、何ともできないですよね。だってその次の一瞬に、ひょっとしたら自分が死んじゃうかもしれない。そういう状況。そういう場所の兵士に読ませる、という場面を作ることによって、この句は、言葉がうんとうんと強くなるんです。句を書く時は、これです。最後の句。

「吸ひに行く――姉を殺した綿くずを」 鶴 彬

高鶴:紡績工場ですね。今、家族のために、妹娘が働きに行こうとしています。でも既にこの家族には、もう既に一つ、悲劇が起こってるんですね。妹娘は、もうここに行ったら自分がどういう運命に見舞われるか、わかってるんです。わかってても行くんです。行かざるを得ないんです。そういう哀しい選択を、人にさせるものに対して、これでいいのか?って鶴彬は怒ってる、ってことですね。こういう句を書きたいじゃないですか、皆さん。いかがですか?是非、こういう句を書いてください。こういう句を買いてこそ、【川柳deレボリューション】てとこへ行くんだと思います。では時間がおしてきましたので、大急ぎでいきたいと思います。皆さんの60句です。「牙」ですね。

「牙抜かれ通勤ラッシュ民の群れ」 奥設楽棲息人

高鶴:ちょっと残念ながら、現状を指摘しただけで終わってますね。情景書いただけで終わってるんですけど、まだこの句材で書くんだったら、こう書くとちょっと焦点が定まります。「通勤ラッシュ牙を抜かれた民の群れ」。一つ芯になる具象を入れるといいと思います。

「原発の神話が崩れ牙をむく」 真公

高鶴:これは残念ながら報道の後追いです。新聞でこういうことはよく、私たち読んでるんですね。さっき言った”私”が入ってないんですよ、これ残念ながら。そこがちょっと惜しかったと思います。

「中立を装うメディア牙を見る」 一志

高鶴:これは、折角面白い発見をしながら、さっき言った、上っ面のことに目をくらまされて、”メディア”っていう言葉を入れちゃったんで、惜しいですね。”中立を装う牙がある”というふうに発想されたら良かったです。「中立を装う牙に囲まれる」って書いたらいい句になりました。

「一億が牙なく骨もなく亡ぶ」 乱鬼龍

これは今までの3句に比べて、字面の背後に立ち上がってくる物語が感じられます。叙情があります。そこ、とってもいいと思います。ただ、ちょっと残念なのは、「一億」という言葉でもって、日本総国民を示すっていう書き方が、ややちょっとレトロっぽいかな?みたいな。(笑)

土屋:若手なのにね。

高鶴:でも、叙情と、字面の背後に立ち上がる物語、っていう意味ではとってもいいと思いました。

「すりへった牙はめなおし顔上げる」 黄金餅

高鶴:これは、「顔上げる」っていうふうに、顔を上げてる所、そこがいいですね。うつむいたままで終わってないとこがいいです。ただ、「はめなおし」が説明っぽいですね。私がもしこの句材で書くんだったら、「すりへった牙はこの俺顔上げる」と書きますね。

「放射能いたるところで牙かくれ」 笛P龍

高鶴:これもちょっと残念ながら、もうこのニュースはよく聞いてるぞ、みたいな感じがします。”牙”というレトリックがあんまり生かされてない感じがしますね。あと助詞ですけれども、「ところで」じゃなくて、「ところに」のほうがいいような気がします。

「新しき芽よひそやかに育ちゆけ」 冷深酒

”牙”の題で「芽」が出てきたのは、”牙”という文字が、「芽」にはあるんですけれども(笑)、これはどう読んでも、「芽」の句になっちゃったところが残念でした。

「春隣羊一億牙を砥ぐ」 斗周

高鶴:またここで、「一億」で日本国民を表すというレトリックが見受けられます。これちょっとやっぱり、句を弱める原因になっています。あと、「羊」を出して従順な集団を表して、それでも牙があるよ、っていう発想は後にいっぱい出てくる発想でした。ちょっと第一発想っぽいかな?っていうことです。致命的なのは「春隣」です。”もうじき春だよ”ってことを示す俳句の季語でもあるんですけども、これがあんまり上品すぎて、”牙を研いでるぞ!”っていう切実感が弱められてしまいました。そこが惜しかったと思います。

「査定には欠かせぬ牙を抜いた痕」 奥徒

高鶴:これは皮肉味が利いてて面白いです。これは面白いと思います。

「どぜう鍋牙を探して覗きこむ」 白眞弓

高鶴:野田総理がドジョウ。(笑)今の宰相が野田氏で、野田さんにはドジョウっていうあだ名がついてるってことを知ってる人には伝わります。でも、10年後、それ覚えてる人はいるでしょうか?ってことが一つ。それからもう一つ。ドジョウ鍋で、「牙を探して覗きこむ」。牙が入っていそうな食材のお鍋だったらそれで成功するんですけど、ちょっと離れすぎている所。ここに隙がありますね。縁語仕立てのレトリックの隙ということです。

「閉塞を破る牙砥ぐ解放感」 英卯蝶

高鶴:これは「開放感」まで書いちゃったもんで、なんだか牙を研いでる状況がやたらと軽い状況になってしまいました。「解放感」書かないほうがいいですね。もっと切迫感を入れましょう。「閉塞を破る牙なり牙を研ぐ」。このぐらい書いたらいいですね。「解放感」書きたかったらもう1句別に作ってください。(笑)

「牙を剥く市長にほしい調教師」 なずな

高鶴:これは残念ながら傍観者の位置で書いてるんです。権力を持ってる大阪市の市長さんに本当に嫌な目に遭わされている人の心のとこまでいって、我が事として書いたら、多分こういう物言いは出てこないと思うんですね。ちょっと惜しかったです。上手に書けてはいます。

「大地揺れ 今年の漢字は きっと『牙』」 零 玄黄

高鶴:これはさっき、5・7・5、必然性がある時はみ出しOKと言いましたが、中8音字になってるんです。中8にする必然性があんまり感じられません。そういう時は要らない言葉を外します。まず、「は」という助詞はなくても意味が通じますね。これ「は」を取ればいいですね。「大地揺れ 今年の漢字 きっと『牙』」このほうがリズムが出ます。次も同じです。

「うぬぼれにマグマが暴れてがれき山」 はたけやま

高鶴:これも中8でリズムが崩れてるので、「マグマが」の「が」を取ります。「うぬぼれにマグマ暴れてがれき山」

「牙隠しのらりくらりと迫り寄る」 わかち愛

高鶴:何が迫り寄ってくるのかを書いていないところがとてもよかったです。これで句意が膨らみます。でも、もっと焦点を合わせましょう。私が書くんだったらこう書きます。「のらりくらり」から始めるんです。「のらりくらりと迫り寄るもの牙隠し」。焦点が定まった方が、訴求力が高まります。

「非正規に資本の牙が突き刺さる」 哲治

高鶴:これはこれでいいんです。書いてあることには異議なしです。共感します。でもさっき言ったやつ。書いてあるのはいいんだけれども、あんまりそのものズバリ書きすぎてる。これは意見陳述文になっています。文芸にならないので、これを表現で書きましょう。そうするとすごくいい句になります。

「牙なしと思えしどじょうに大牙が」 行受

高鶴:(笑)これも野田総理をもじった句ですね。

土屋:どじょう人気ですね。

高鶴:そうです。どじょうという生物に、牙がちょっとでもあるものを持ってきたら、これは成功するんです、レトリックで。でもどじょうには牙がないですよね。そこに隙があるんです。

「鋭くて細い牙なら折りやすい」 逝く春

高鶴:この「折りやすい」は反語仕立てです。逆説仕立てです。これはいいんですけれども、”鋭い”と”細い”2つ形容詞使っておられますけど、形容詞の指し示すイメージの方向が逆なんです。”鋭い”はプラスイメージ、”細い”がマイナスイメージ。そのせいで、「折りやすい」っていう反語が、効きづらくなっています。これは”鋭い”っていうほうの形容詞を変えたほうがいいですね。「従順で細い牙なら折りやすい」。このほうがいいと思います。

「骨抜いて牙が残った派遣法」 笑い茸

高鶴:これ、ズバッと書いてありますけども、ちょっとズバッと書きすぎて、なんか薄っぺらな印象になりました。もうちょっと字面の背後に立ち上がる物語、っていう方向で、言葉を出されると良かったと思います。

「待ったなし ガチンコ勝負 脱原発」 個独人

高鶴:これはもう異論ありません。その通りです。でも残念ながら、ちょっとなんかスローガンぽくなってしまった(笑)。スローガンで止まっちゃった、っていう残念さを感じます。

土屋:なんか、バナーに書いてそうですね。

高鶴:そうですね。

「もつべきは 歌に太陽 時に牙」 春うらわ

高鶴:「時に牙」っていうのでいいのかな?っていうのが一つと。あとこれですね。「歌」「太陽」「時に牙」って、3つ並列で出されてるんですね。”もつべきものは”って言っておいて。3つ並列よりももうちょっとだけ芸を見せましょう。「もつべきは 花に太陽 俺に牙」。こっちのほうが面白くないですか。花には太陽必要ですからね。それと同じように、俺にも牙は必要なんです。

「牙抜かれ骨も抜かれてきた歴史」 乱鬼龍

高鶴:これはいいですね。裏っ側に立ち上がる物語があります。ただ、惜しむらくは。欲を言えば、ですよ。やっぱり現状指摘で止まってるんです。もう一歩来て、さっきの、「吸ひに行く――姉を殺した綿くずを」ぐらいの所まで行かれると、これ問題提起として働くかと思います。

「年むかえ東電笑顔牙かくし」 笛P龍

高鶴:「東電」と入れたくなったのはわかるんですけども、やっぱ「東電」と入れたもんで、えらい薄っぺらくなっちゃった、ってことですね。これは「笑顔」に「牙」が隠れている、という所がいい所なので、そこを中心に句を立ち上げれば良かったと思いますね。私がこの材で書くんだったらこう書きます。「御用心 笑顔に牙は隠される」。

「牙をそぎ 原発やすかれと お詣りす」 零 玄黄

高鶴:これ「牙」が題だから「牙」入れちゃった、っていう感じがするんですけど。(笑)これは「牙」要らないですね。これは「牙」は取って、こう書かれると良かったと思います。「お詣りす 原発殿よ やすかれと」。ハイ、もう沈黙して、お亡くなりになっていただきましょう。

「八重歯だと思っていたよあのころは」 斗周

高鶴:これも書き方としては悪くないですね。これはこれでいいと思います。

「優しくて丸い牙ゆえ痛いです」 逝く春

高鶴:発想いいですね。とびきりでした。発想ピカイチ。ちょっと欲張りな添削です。このままでもいいんですけれども、私は一回切った方が面白くなると思います。下語でひっくり返す展開なので、それを効かせるために、一回切った方がいいというアドバイスです。「優しくて丸い牙です 痛いです」。そうすると「です」「です」でリズムも出るんですね。発想は抜群でした。この方。

「牙秘めてひたすら座るテント前」 奥設楽棲息人

高鶴:これ、「秘めて」が弱いですよ。だってさっきのニュースでテント出てましたけど、こんな寒い中、皆座ってるじゃないですか。「秘めて」弱いから、もうちょっと強い動詞に変えましょう。「牙呑んでひたすら座るテント前」。「呑む」のほうがずっといいと思います。

「なんやかやいちゃもんばかり言いたがり」 わかち愛

高鶴:私たちは”牙の題だよ”っていう予備知識があるので、”牙”だっていうふうに繋がりますけど、題を外すと、これは牙の句とは読めませんよね。お小言の句のようにも読めますよね。だから、こういうのはちょっと残念ながら”題にもたれかかる”って言うんです。題を外しても、ちゃんと”牙”その題が意図するものが出てないと。17音字で勝負ですから、川柳は。そこにちょっと残念さがあります。

「牙抜かれエサをおねだりマスメディア」 英卯蝶

高鶴:マスメディアの今の調子を衝いてるわけなんですけど、「牙抜かれ」っていうふうに、他律的に書いた所が残念ですね。つまり、「抜かれ」っていうと、誰かが抜いちゃった、ってことになりますね。受動的なんです。「エサをおねだり」、こっち能動的でしょ。やっぱり両方とも能動能動、自律自律、でいきましょう。「牙捨ててエサをおねだりマスメディア」。このほうが統一されます。

「日常が牙を剥いてる浜通り」 白眞弓

高鶴:これいいです。発見あります。とってもいいと思いました。ただね、ここから先、白眞弓さんの腕の見せ所なんですけども。例えば「ヒロシマ」「ナガサキ」「フクシマ」、これをカタカナで書くと、私たち一定のイメージ共有できますよね。ここの句の中の「浜通り」って言葉がそこまで行けば、これは一句でいけるんです。抜群なんです。今の段階だと、これ連作の中の一句としたらすごい働き。だから、悪くない句なんですけれども、そこでちょっと、もうちょっと望みたいっていう、そういう印象です。でも、ここにはご自分の目で見つけられた発見があって、とっても評価します。

「牙はずし通勤用の顔つくる」 黄金餅

高鶴:これはまあこれでいいじゃないですか。雰囲気出ていると思います。これ、いいです。

「寒空に新芽めざめよいっせいに」 冷深酒

高鶴:これもなんか芽の句になっちゃいましたね。芽の句ということで添削を入れると、「寒空」と言わないで、ズバッと言っちゃったほうがいいです。で、これ破調に仕立てるんです。「めざめよいっせいに十二月の新芽」。勢いが出ますでしょ。

「和をもって尊い国で牙を研ぐ」 一志

高鶴:これちょっと日本語的に、ちょっとブレがあると思います。「和をもって尊ぶ国で牙を研ぐ」。「尊い」じゃなくて、「尊ぶ」としないと、日本語的な無理が出かると思います。

「女たち生命(いのち)脅され牙をむく」 真公

高鶴:これ、陥りやすいとこなんですよ。「女たち生命脅され」って書いて、ああ命脅されてる状況が書けた、って安心しちゃってるんです。ところが違うんです。こうやって書いても、ちっとも脅されてる感じは伝わってこないんです。そこがちょっと惜しかった。これと同じような欠陥を持った句が最後のほうに出ます。アドバイスはそこで行います。その時にこの句もちょっと思い出してください。

「独裁者民意民意と牙を剥く」 なずな

高鶴:そうですね。「民意民意」と振りかざして言ってきますね。ただ、「牙を剥く」っていう言葉の語感、「牙を剥く」っていう言い方は、なんかされて反撃する、っていう、そういうニュアンスありませんか?独裁者って反撃しないんですよ。もうだって、自分から行くわけですから。民意一個削りましょう。で、一つ民意残して、それを鍵カッコに入れてください。ホラ、鍵カッコ付きの「民意」なんですよ。「独裁者『民意』と牙を振りかざす」。こっちのほうが独裁者には合ってると思います。「民意」は鍵カッコ入れてください。

「尻尾振る労組は牙も生えて来ず」 奥徒

高鶴:まあね。今はそういうのあります。これでも、「牙も生えて来ず」よか、もっと強くいきましょう。「尻尾振る労組の牙は何処行った」。

「牙をむく辺野古原発化けどじょう」 行受

高鶴:ちょっと3つ、欲張って入れすぎました。そのために句の力が弱くなったので、どれか一つ、怒りをあててください。辺野古でもいい、原発でもいい、化けどじょうでもいい、ってことですね。ちょっと句材を整理しましょう。

「牙抜かれ気づかぬうちに貧困に」 哲治

高鶴:これ目の付け所いいですね。すごくいいです。惜しかったのは、「気づかぬうちに」っていう書き方が説明なんです。これをちょっと解消したいですね。貧困から始めましょう。「貧困やいい子いい子と牙抜かれ」。これで説明じゃなくなりました。

「無責任 責任もって 正当化」 個独人

高鶴:これ面白いんですよ。無責任であることを責任もって正当化している、っていうふうなことで。もうものすごく好きだったんですけど、惜しいのは、表記です。「無責任」の次の一字空け。これは必然性が感じられます。ところが「責任もって 正当化」の間にある一字空け。これは不必要ですね。要りません。ツメましょう。これツメてあったらこれ私特選採りたかった。これは欲なんですけど。惜しかったです。

「気晴らしに きばらず牙で 初投句」 春うらわ

高鶴:うん。それはまあ良かったです。(笑)これを機会に川柳に親しんでください。これも一字空け不要ですので、ツメてください。

「欠けた牙にぎりしめつつ新芽待つ」 冷深酒

高鶴:また芽の句ですけども。”芽”ってことで添削を入れちゃうと、「にぎりしめつつ」って言ってますね。握りしめるんだったら、欠けるよりも、こっちの動詞のほうがいいと思います。「折れた牙にぎりしめつつ新芽待つ」。「新芽待つ」のところがね、「春を待つ」にしてもいいんじゃないかっていうふうに思いますけどね。

「犬の歯と名前をかえて生き残る」 なずな

高鶴:確かに”牙”は犬歯になってるんですけど。「犬の歯」っていう辺りの言葉にもっとインパクトがあったらもっとこの句は良くなりました。

「角を矯め牙を隠して四十路の炉」 白眞弓

高鶴:これちょっと原発と絡めないで読んだら、なんかそれはそれで面白い、みたいな(笑)。四十路の女性がイメージされて。そうするとちょっと面白いんですけど。「四十路」っていう言い方を、どうも私、ちょっとレトロっぽく感じて。それが句意を弱めるような気がしますね。さっきの浜通りの句の発見にはやっぱり負けます。あっちがいいです。

「牙を捨て思想をむいて何をする」 わかち愛

高鶴:”思想をむく”っていう言い方が少し伝わりづらいように思います。ですから、ここを動詞を変えたらいいんじゃないかなと。「牙を捨て思想ふみつけ何をする」。もし、「を」「を」で作りたかったら、「牙を捨て思想をふんで何をする」。どっちでもいいです。”むく”っていう動詞がちょっと句意をぼやかす感じになりました。

「復興の予算に紛れ込む毒牙」 笑い茸

高鶴:これは評価します。”復興のためなんだ”ということで、かねてからずっと思っていた消費税増税を紛れ込ませるとかですね、色んな現在の状況をうまいこと書いてると思います。これ、いいですね。

「いつからか国語に牙の文字が消え」 一志

高鶴:これ惜しいですね。書き方を考えましょう。「国語に牙の文字が消え」っていう所の書き方が弱いです。「いつからか牙をなくした日本語」。これでいいんじゃないですか。

「甘く見るな羊も牙を隠し持つ」 斗周

高鶴:「羊」と「牙」の対置で書いてある句はいっぱい出ましたけど、その中ではこれが一番力がありましたね。力は強かったけども、「羊」は”角”ですよね。”牙”のある動物で書いてたらもっと良かったと思います。

「川柳に牙はあるかと天が問う」 乱鬼龍

高鶴:”当然です”と、高鶴は答えます。(笑)

「赤ずきん東電牙に気をつけて」 笛P龍

高鶴:これも”牙”の題だったので、牙を持ってきた、っていう感じがしますね。この句完成させるんだったら、こうでしょう。「赤ずきん東電さんに気をつけて」。これでいいですね。

「就活に備え自分の牙を抜く」 奥徒

高鶴:言いたい事はわかりますけど、やっぱりこれも句の焦点となる何か、体言を入れましょう。「就活に備えて抜いた牙の数」。「数」が入ることによって焦点が定まるんです。

土屋:嫌な感じ(笑)。

高鶴:忸怩たる思いで抜いた牙を見ている、っていう、そういう景色も見えてきますね。

「放射能地球を蝕む資本のウンコ」 はたけやま

高鶴:「資本のウンコ」はいいと思います。残念なのは中8になっていることです。「地球を蝕む」で8音字になってますね。これ、「を」は要りませんね。「放射能地球蝕む資本のウンコ」。これでいいです。

「刺すでなく噛み付くでもない牙もある」 逝く春

高鶴:その通りなんですけど、ちょっとだらだらした印象があるのと、「牙もある」っていう言い方で、少し句が弱くなってるような気がしますね。ちょっと句意を変えてしまうんですけども、「噛み付くでもない」が中8になってるんです。解消のしようがない時は、頭に乗っけりゃいいんです。「噛み付くでなく刺すでもなくて牙で射る」とかしちゃうと面白くなると思います。

「無主物がふわりふわりと牙を剥く」 笑い茸

高鶴:これは面白いです。「ふわりふわりと」っていう副詞が「牙を剥く」と合わせられている所が非常に面白い。ただ、「無手物」という日本語を、パッと辞書をひかないでわかる人が少ない、という所がちょっと惜しいんですね。”無主物”というのは、何人にも属さない者、ということで、法律なんかの用語で出てくる用語です。つまりこれ、地震の時の、海であるとか、山であるとか、川であるとか、そういうことを書いている、ってことですね。だから、「無主物」、ドンピシャの意味はわかんなくても、感じで意味を、私たちは理解することができるので、それなりに面白い作品になっていると思います。「ふわりふわりと」っていう副詞を、普通は風船とかに使うような、風船を、「牙を剥く」と合わせた所にセンスを感じます。

「羊たち今こそ怒れ牙を研げ」 真公

高鶴:やっぱりまた「羊」と「牙」の二大話みたいな句なんですけれども。さっきも言ったように、婉語で仕立てる構成をとる時は、牙のある動物を持ってきて書いたら成功するんです。ここに比喩の隙が見えます。

「弁誤士が牙狼に変身毒裁者」 英卯蝶

高鶴:弁護士の護を”誤る”という字に変え、独裁者も毒薬の”毒”を書いている、ということで。ちょっと残念ながら、こういうのは”語呂合わせ”と言います。そこで止まってしまっているので、是非”掛詞”っていう所までいくように、言葉を磨いて書いてみてください。

「牙無しの連合の旗 力無し」 哲治

高鶴:そうですね。”組合の旗を掲げてるんだったらもの言えよ!”って言いたくなる方は、多分いっぱいおられるんじゃないでしょうか。これもちょっと真正面から書きすぎている気がします。こう書いたらいいんじゃないかと。「旗だけか!お前らの牙どこにある」。

土屋:連合以外の組合にも。

高鶴:はい。今トカチさんが言いましたけど、そこもポイントですね。連合だけに通じる句じゃないでしょう。この作者の方が、この句を書こうとされたのは、”組合”っていう旗を揚げていながら、何なんだよそれは!っていう所にあると思うんですね。そしたらそれは連合っていう言葉を出して、わざわざ意味を狭める必要は何もないわけです。

「避難所は 牙をとぎつつ 春をまつ」 春うらわ

高鶴:これ、「牙をとぎつつ」でしょうか?避難所。避難所は春を待ってるんですけど、とぎつつ待ってんのかな?私はこういうふうに思います。「避難所は 牙に耐えつつ 春をまつ」。補償だって進まないじゃないですか。ねえ。そういうのを、「牙に耐えつつ」と書いたほうが、避難所でしたら合うと思います。

「子を守る母の怒りが牙を剥く」 奥設楽棲息人

高鶴:これです。さっき、覚えといてください、って言った句と同じ欠陥を持つ、弱点を持ってる句ですね。「子を守る母の怒りが」って書いたことで、子を守る母の怒りが書けた、って思っちゃうので残念なんです。ちっともこれ伝わってこないんですよ。言葉がまだ、言葉に、机の上で止まってるんです。もっともっと強い怒りを表してください。「牙を剥く母なり母は子を守る」。こうやって書いたら、ちょっと伝わりませんか。「さみしい」って書いて寂しさが出た、「美しい」って書いて美しさが出た、って、思ったらいけないんです。「怒った」って書いて怒りが出たと思ったらダメなんですね。”伝える形”っていうのはあると思います。

「牙たてず よく聞き、解ると 書き初めぞ」 零 玄黄

高鶴:これちょっと意味がよくわかんなかったんですけど(笑)。”牙をたてないで、よく聞いて解ると”、ここまではわかるんですけど。なんで書初めが出てきたかはちょっとよくわかんなくて。作者がおられたら、またいつか高鶴にお話をください。

「いたいけな子らに牙むく放射能」 行受

高鶴:これは、うまいこと書けてるんですけども、残念ながらこれも報道の後追いに終わってます。そこが惜しい所です。さっき言った所です。いたいけな子どもにもっと感情移入して書いてみてください。すみません。駆け足でわーっと行きましたけれども。(拍手)

土屋:授賞式があるんですか?

松元:最優秀賞。

高鶴:はい。今日一番私の心に響いてきた作品というのを、一句申し上げたいと思います。これはですね、多分ここを直せばもっと、もっといい句になるぞっていう句はいっぱいあったんですけれども、こうやって60句出てきた中で、一番今の時点で完成している、という意味で選ばせていただいた一句です。

土屋:じゃじゃ〜ん!

高鶴:これです。

「復興の予算に紛れ込む毒牙」 笑い茸

高鶴:これがいいと思います。いい句をありがとうございました。(拍手)

松元:授賞式を。笑い茸さん、いらっしゃるんだ。

笑い茸:ありがとうございます。(拍手)

松元:また作品を出してください。はい。ということで、【川柳deレボリューション】、川柳界のジャンヌ・ダルク高鶴礼子さんにおこしいただきました。どうもありがとうございました。またレイバーネットTVのほうでも、川柳をたくさん書いていただきたいと思います。

高鶴:ありがとうございました。(拍手)

土屋:続きましては【ザ 争議】のコーナーです。

<呈示句>
「痛恨の六日九日十五日」 十善寺心太
「平成七年一月十七日 裂ける」 時実新子
「母ちゃんと呼ぶまでわが子とは見えず」 馬場木公
「帰らない子へ泣き帰った子へも泣き」 馬場木公
「カナカナよ青年のまま墓の下」 河内さい子
「夕立が欲しいわたしも土も病む」 河内さい子
「先頭を行くなと自衛隊の母」 大石鶴子
「潔い死は選ばずに蛇は這う」 石垣 健
「これしきの金に/主義!/一つ売り 二つ売り」 鶴 彬
「どてっ腹割れば俺いらのものばかり」 鶴 彬
「首を縊るさへ/地主の/持山である」 鶴 彬
「ざん壕で読む妹を売る手紙」 鶴 彬
「吸ひに行く――姉を殺した綿くずを」 鶴 彬

<「牙」応募句>
「牙抜かれ通勤ラッシュ民の群れ」 奥設楽棲息人
「原発の神話が崩れ牙をむく」 真公
「中立を装うメディア牙を見る」 一志
「一億が牙なく骨もなく亡ぶ」 乱鬼龍
「すりへった牙はめなおし顔上げる」 黄金餅
「放射能いたるところで牙かくれ」 笛P龍
「新しき芽よひそやかに育ちゆけ」 冷深酒
「春隣羊一億牙を砥ぐ」 斗周
「査定には欠かせぬ牙を抜いた痕」 奥徒
「どぜう鍋牙を探して覗きこむ」 白眞弓
「閉塞を破る牙砥ぐ解放感」 英卯蝶
「牙を剥く市長にほしい調教師」 なずな
「大地揺れ 今年の漢字は きっと『牙』」 零 玄黄
「うぬぼれにマグマが暴れてがれき山」 はたけやま
「牙隠しのらりくらりと迫り寄る」 わかち愛
「非正規に資本の牙が突き刺さる」 哲治
「牙なしと思えしどじょうに大牙が」 行受
「鋭くて細い牙なら折りやすい」 逝く春
「骨抜いて牙が残った派遣法」 笑い茸
「待ったなし ガチンコ勝負 脱原発」 個独人
「もつべきは 歌に太陽 時に牙」 春うらわ
「牙抜かれ骨も抜かれてきた歴史」 乱鬼龍
「年むかえ東電笑顔牙かくし」 笛P龍
「牙をそぎ 原発やすかれと お詣りす」 零 玄黄
「八重歯だと思っていたよあのころは」 斗周
「優しくて丸い牙ゆえ痛いです」 逝く春
「牙秘めてひたすら座るテント前」 奥設楽棲息人
「なんやかやいちゃもんばかり言いたがり」 わかち愛
「牙抜かれエサをおねだりマスメディア」 英卯蝶
「日常が牙を剥いてる浜通り」 白眞弓
「牙はずし通勤用の顔つくる」 黄金餅
「寒空に新芽めざめよいっせいに」 冷深酒
「和をもって尊い国で牙を研ぐ」 一志
「女たち生命(いのち)脅され牙をむく」 真公
「独裁者民意民意と牙を剥く」 なずな
「尻尾振る労組は牙も生えて来ず」 奥徒
「牙をむく辺野古原発化けどじょう」 行受
「牙抜かれ気づかぬうちに貧困に」 哲治
「無責任 責任もって 正当化」 個独人
「気晴らしに きばらず牙で 初投句」 春うらわ
「放射能地球を蝕む資本のウンコ」 はたけやま
「刺すでなく噛み付くでもない牙もある」 逝く春
「無主物がふわりふわりと牙を剥く」 笑い茸
「羊たち今こそ怒れ牙を研げ」 真公
「弁誤士が牙狼に変身毒裁者」 英卯蝶
「欠けた牙にぎりしめつつ新芽待つ」 冷深酒
「犬の歯と名前をかえて生き残る」 なずな
「角を矯め牙を隠して四十路の炉」 白眞弓
「牙を捨て思想をむいて何をする」 わかち愛
「復興の予算に紛れ込む毒牙」 笑い茸
「いつからか国語に牙の文字が消え」 一志
「甘く見るな羊も牙を隠し持つ」 斗周
「川柳に牙はあるかと天が問う」 乱鬼龍
「赤ずきん東電牙に気をつけて」 笛P龍
「就活に備え自分の牙を抜く」 奥徒
「牙無しの連合の旗 力無し」 哲治
「避難所は 牙をとぎつつ 春をまつ」 春うらわ
「子を守る母の怒りが牙を剥く」 奥設楽棲息人
「牙たてず よく聞き、解ると 書き初めぞ」 零 玄黄
「いたいけな子らに牙むく放射能」 行受


【ザ 争議】(略)

松元:今晩のレイバーネットTV、いかがでしたでしょうか。レイバーネットTVでは、これからも大手メディアが報道できないようなニュースをどんどんご紹介していきます。今日の番組、次回へのご意見、色々ありますが、なんでもいいのでお寄せください。

(メールアドレス= labor-staff@labornetjp.org )
(公式レイバーネットTVサイト= http://www.labornetjp.org/ )
(ツイッター= @lnjnow または @labornetjp )
(レイバーネット日本= http://www.labornetjp.org/ )

土屋:レイバーネットTVはみなさまからの寄付で運営されております。「この番組いいね」と評価していただけるのであれば、カンパを是非お寄せください。寄付をいただいた方のお名前は番組終了時のエンドロールに流れます。小額でも構いませんので、多くのみなさまからご協力いただけると大変嬉しいです。

(★レイバーネットTV基金カンパ受付中!→郵便振替 00150-2-607244 レイバーネット日本 または→ 〇一九店(019)当座 0607244 )

土屋:ということで、昨日かな?いただいた方が。

松元:はい!名古屋のナカタさんからカンパが!これ2回目なんです!「バイトの思いがけない額が」バイトですよ…。「思いがけない額が入り、小額を気持ちだけカンパさせていただきます。楽しみにしていて、いつも学ばせていただいてます。ありがとう」というメッセージつきでいただきました。ありがとうございました。(拍手)

土屋:気持ちがうれしいですね。

松元:それから無料プレゼント!たくさん応募があったんですけれども。

土屋:こちらの、私のDVD-BOOKですけども。絶賛発売中でございますけどね。一応応募がありましてですね、また?愛知県のキムラさんに、プレゼント当たりましたので、是非お待ちください。

松元:おめでとうございます。(拍手)

土屋:当たらなかったかたも是非ね。本屋さんで買えますんで。観て下さい。発売記念祝賀会がですね、2月7日の、東京なんですけども、ダイニングバー「FOREVER 707」という場所でありますので、是非おこしいただければと思います。映画の本編の上映なども色々ありますので、おこしください。という宣伝でございました。ありがとうございます。で、次回はですね。

松元:はい、次回は2月16日です。今度は橋下組合潰し。

土屋:橋下って誰かっていうことは?

松元:すみません、大阪市長の(笑)。

土屋:大阪市長のね。橋下さんの、組合潰しのことについて、番組で特集で取り上げますので、お付き合いください。また再来週、次回お会いしましょう。ありがとうございました。

松元:今晩もお付き合いありがとうございました。また次回お会いしましょう。(拍手)


Created by staff01. Last modified on 2013-08-27 15:18:27 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について