「南の国から」63号～このまま終結でいいのだろうか（国労闘争団・中野勇人）

南の国から～　四国常駐記 №６３

発行　国鉄闘争四国共闘会議中野　勇人　２０１１．９．３０

徳島県三好市池田町シマ８６７－１　TEL＆FAX ０８８３ー７２－４３８０　

このまま終結でいいのだろうか…

【雇用断念から３ヵ月…】

　雇用断念の判断がされてから３ヵ月が経過しました。まだまだ気持ちの整理がつかずにいた９月１５日、ＪＲ東海会長の葛西氏が行政刷新会議の議員に選任されたという報道を目にしました。選任理由は、国鉄分割民営化に尽力したからだそうです。葛西氏は、分割民営化攻撃でやり尽くせるだけの不当労働行為を行い、２００名以上の自殺者を出し、約１０万人の国鉄労働者が職場を去らざるを得ない状況を作った張本人です。
　私たちには、たったの１回、政務官がＪＲに要請し、拒否されればすぐに雇用はゼロと言い放ち、今度は舌の根も乾かないうちに、要請を拒否したＪＲ東海会長、葛西氏を政権に招き入れるその政治感覚の無さに、民主党政権に対し強い憤りを感じます。
　その報道を聞いてから「このまま終結でいいのか」という思いが沸々と湧き上がり、思いのままキーボードをたたきました。
　今回の結果については、誰の責任でもなく全て当事者本人の力の無さの結果です。
　この３ヵ月間の労働界の動向、マスコミも含めた資本家側の動向を見ていますと和解を拒否した６名の原告、動労千葉、全動労争議団が闘いを継続していますので、国鉄闘争は続いていますが、社会的には国鉄闘争は終結したという感は否定できません。
　私が雇用断念の報告を聞いたのは、６月２６日に開催された、サロマ湖１００㎞マラソンに参加するため帰省していた北見市でした。まさかの雇用断念の判断に落胆というよりは、突然の事態への驚きでした。当然６月２６日のレースは、気持ちも重たく辛いものとなり、何とか完走できたものの、これまで１４回出場の中でワースト１の記録でした。
　６月１３日、ＪＲ７社はその場で要請を拒否しましたが、政府として初めてＪＲへ雇用要請をしました。これまでのＪＲの態度を見れば拒否することは織り込み済みであり、さぁここからＪＲに対し、政府の要請を受けろ！という抗議行動、政府に対しては約束の履行を求める要請行動が表立ってできるものと思っていましたし、実行するつもりでいました。それが、たった一度の要請、しかも大畠国交大臣でなく、津川政務官からの要請で断念の判断をするというのは、これまでの闘いの経過からしても納得がいきません。しかし、結果はそのような気持ちを持っている原告の声を反映する場もなく、４者４団体会議、原告団中央協議会（解散）総会、国鉄闘争共闘会議（解散）総会で雇用断念が報告されました。共闘会議総会の中では共闘の方々から様々な反対意見が出されたようですが、最後は「原告当事者が決めたこと」という言葉で締めくくられました。
　原告当事者の平均年齢５８歳。確かに昨年の政治解決で不十分ながら金銭を取ったことで、本人はもとより家族もホッとしている方がいるのも事実ですし、その気持ちを否定するつもりはありません。私は、集会や講演などで、たとえ自分でなくても、解雇者から一人でもＪＲ職場に戻すことが出来ればこの闘いは勝利であると言ってきました。　鉄建公団裁判は一人一人の決意と責任で判断し闘ってきました。これを機会に一区切りつけたいという方々がいても当然だし認めるべきです。しかし一方で、闘い続けたいという原告がいれば、その意志を尊重し、小さくなっても闘える体制を残すべきであったと思います。最後に四党合意で払拭されたと思っていた、組織決定という企業内労働運動のエゴが出たことが残念でなりません。四党合意時の藤保美年子さん（音威子府家族会）の「私たちの人生を勝手に決めないで下さい」という言葉が今も頭の中をループしています。　　　　　　　　　　　　

【支援の方々の反応（四国）】

　６月３０日、北見市から戻り、まずは四国共闘の方々に現状報告をしなければいけませんし、差し迫った夏物販の取り組みも決めなければならないため、７月５日に四国共闘の幹事会を開催しました。私から、裁判を取り下ろしているだけに、今後何をどうしていくのか？その前に今回の判断について心の整理がついていないということを話しました。共闘の方々からも「あまりにも突然。もう少し闘えなかったのだろうか…」等々意見が出されましたが、４者４団体、原告団、共闘会議の解散を受け、四国共闘会議としても今後に向けての判断をしなければなりません。しかし、すぐに私の方向性も決められる状況にありませんから、当面各県の支える会を継続しながら夏物販も取り組んでいくことにしました。
　例年より遅くなりましたが、７月中旬から各県に物販のオルグも兼ねて、状況報告に伺いました。闘争終決の記事は地方紙でも大きく取り上げられましたから、何処に行っても状況は知られていましたが、皆さん異口同音に、四国共闘の幹事会の中で出されたことと一緒で「２４年間闘ってきた国鉄闘争の終わり方としては、あっさりすぎる。今回の東日本大震災のように国鉄闘争の解決の気運が高まった時に、必ず大きな出来事が起きますね」と言われました。当面各県支える会の体制継続と夏物販を取り組んでいくことについては、快く承諾して頂きました。
　夏物販の取り組みにつきましては、９月中旬までの取り組みとしていましたが、今回の状況を受け、例年より落ち込むことは覚悟していましたが、これまでと変わらない注文を頂きました。ご協力に感謝申し上げます。

【支援の方々の反応（全国）】

　７月２３日、昭和シェル労組４０年紛争解決報告＆祝う会に参加しました。その前後、東京までの往復を青春１８切符を利用し、全国の共闘の方々は今回の判断についてどう感じているのか、自分の気持ちも含め交流をしたいと思い、これまでキャラバンで知り合った方々と交流を持ってきました。
　７月２１日、福山現業労組の方々との交流に始まり、２２日、東京で辻井さんの裁判傍聴で一緒になった高久さん（国労ＯＢ）と、夜は三鷹で、嶋崎三鷹市議会議員をはじめ、嶋崎さんの選挙スタッフの皆さんと交流。２３日夕方、東京で神田香織さん、盧佳世さん、並木さんと、２５日の日中、ビデオプレス社を訪ね、松原さん、佐々木さんと意見交流。夜は八王子で、田中哲朗さん、根津公子さん、田中さんの闘いを支援している上田さんと交流し、２６日、浜松市で遠州連帯ユニオンの方々と、２７日最終日は、日中、野坂さん（闘う闘争団を支える京都の会）と意見交換し、夜は大阪で、趙博さん、山下茨木市議会議員、桐生さん（闘争団を支える大阪の会）と実に多くの方々と交流をすることができました。久し振りにお会いする方々が多く、何処に行ってもウエルカム状態で迎えて頂きました。
　今回交流しました皆さんとは、殆ど２００５年の１０４７キロランニングキャラバンからのお付き合いです。肝臓には過酷な旅（アルコール漬けで…）でしたが、あらためて、人と人との出会いの大切さを感じるとともに、皆さんのパワーを頂き、自分なりに得るものが多かった反面、宿題も課せられた旅でもありました。
　皆さんから出された意見を抜粋し、羅列します。「あまりにも突然すぎて、こちらもあっけにとられている。判断を急ぐことはなかったのでは…お金は取ったが、結局、四党合意と同じではないか。結局、鉄建公団原告が主導権を取ったのではなく、国労、連絡会議に主導権を取られて終わったのでは…共闘の総会に参加したが、当事者が決めたことと言われたら何も言えなかった。ＪＲ東日本会社を相手取った不正取水問題の株主代表訴訟は全く別問題。これまでの闘いの総括、継承を誰がどのような形で行うのか。この判断に納得できないといって、共闘会議、原告団も解散し、ましてや裁判も下ろし武器がない状況でどう闘うのか」等々まだまだ書ききれないくらい、沢山の意見が出されました。総じて、四国の共闘の方々も地方の方々も今回の判断について、納得いく結末ではなく、どなたの胸にもストンと落ちていないことがわかりました。
　余談となりますが、私の今後の進路についても随分心配して頂きました。「中野さんの選択、判断を指示するし、関東、関西でもいつでも受け入れるよ」とも言って頂きました。この言葉をかけて頂いただけでも闘ってきて良かった、２４年の闘いの中でお金では買えない人の繋がりという大きな財産を持つことができたと改めて実感することができました。突然の訪問にもかかわらず快く受け入れして下さり、交流の場を作って下さった皆さん、本当にありがとうございました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
【今後について】　

　納得できない…この偽らざる気持ちから、約３ヵ月間、自分に自問自答し、多くの方々とも交流しながら意見交換をしてきました。「３ヵ月も経ってまだ気持ちの整理がつかないのか！国労、鉄建公団原告としての闘いは終結した」という方々もいらっしゃるでしょう。確かに私たちの北見闘争団も８月２０日に解散式を行い、９月１０日には、これまで支えて頂いた地域共闘の方、群馬、三多摩、四国からも国労、共闘の方を招いて国鉄闘争最終報告レセプションを行い、一定の区切りをつけました。
　借りていた闘争団事務所は８月一杯で閉鎖しました。９月のレセプションに帰った時にはもう売却の看板が立っていました。この間まで団員、家族が集う場所として、愚痴を言い合い様々な悩みを打ち明けてきた団結体としての場所がもうなくなり、ほんの数ヵ月の間のことが何年も経ってしまったかのような錯覚さえ感じました。同時にもう組織自活体制ではなく、これから先は、それぞれが本当の意味で自立、自活をしていかなければならない現実が嫌でも突きつけられました。
　闘える場所に身を置きながら、政府・ＪＲの責任をこれからも追及していくという気持ちがある一方、きれい事だけ言っていても現実問題として生活していかなければなりませんし、しっかり、したたかに生きて行くことも闘いです。これまでこの狭間の葛藤がありました。明解な今後の行く道が見えたわけではありませんが、取りあえず北海道に帰る選択肢は削除しました。四国に常駐して丸８年、運動の中心は四国であり、人間関係も四国、中国、近畿、東海、関東の方々との関係が強くなっています。生活をしていくだけなら北海道に戻ることもあり得ますが、これまでの闘いの中で支えて頂いた恩は、運動で返していかなければならない、そのことを基本に据えるべきと考えました。
　関東、関西でも歓迎するという言葉を頂いていると報告しましたが、これからの運動の中心は、やはり四国になっていくと思います。一度は様々な運動課題と併せて、緩やかな形で政府・ＪＲへの責任追及を行っていこうと思いましたが、自己満足、独りよがりと言われても、政府・ＪＲに対してやれることの全てを行動で示していきたいと考えています。しかし、無期限にということは言えませんので、現状の体制で、当面１年間という期限を切って、国鉄闘争の総括、四国における闘争記録の整理を行いながら、今後の事を考えていきたいと思います。まだ奥歯に物が挟まった表現でしか報告できませんが、気持ちを酌んで頂きたいと思います。この判断に納得のできない方が九州原告の中にも何人かいますが、何ができるのか？どうしていくのか？定期的に話し合いを持って行くことにしています。連携した取り組みが出来るのか否かも含め、もう少し具体的になりましたら皆さんにご報告致します。引き続きご支援・連帯をお願い致します。
　長々と今の思いを報告しましたが、最後に常駐記でも何度か紹介したと思いますが、永六輔さんの「生きるということは」という詩を掲載し、締めとさせて頂きます。

生きるということは
　　生きるということは　誰かに借りを作ること　
　　生きるということは　その借りを返していくこと　
　　誰かに借りたら誰かに返そう　誰かにそうして貰ったように　
　　誰かにそうしてあげよう　
　　生きていくということは　誰かと手をつなぐこと　
　　つないだ手のぬくもりを忘れないでいること　
　　めぐり逢い愛し合いやがて別れの日　
　　その時に悔やまないように今日を明日を生きよう　
　　人は一人では生きていけない　誰も一人では歩いていけない　　　