一人ひとりが主人公のメディア〜MediR講座に参加して | |||||||
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■「MediR」講座に参加して 1月6日、「市民メディアセンターMediR」主催の講座(写真)に参加した。この日のテーマは「民衆メディアは何ができるか?〜レイバーネット・ユニオンチューブの挑戦」。講師はビデオプレス代表、レイバーネット副代表の松原明さん。司会は主催者の森広泰平さんが務めた。 「MediR」は東京・高田馬場にある。早稲田通りから細い路地を入り少し歩くと、趣のある風景が眼前に広がる。そんな住宅街の一角に会場はある。 講師の松原さんは、市民運動、労働運動、メディア運動を経験してきた。豊かなキャリアの原点にあるのは「べ平連運動」と小田実の「人間ちょぼちょぼ論」。すなわち、権威や上下関係を排除した徹底した「平等主義・民主主義」だという。 ■大手メディアに期待し過ぎないこと 映像関連機器が並ぶ部屋のスクリーンに、実物のサイト画面が映し出された。レイバーネットの仕組みと、運営方法や記事の集まりかたなどが解説された。講演はインターネットの歴史から、現在の海外メディアの状況、巨大動画サイト「ユーチューブ」の登場、「ユニオンチューブ」運動の取り組みへと広がった。 インターネットの爆発的な普及と定着で、今や各種の市民メディア、自由な投稿・掲載を受け入れる著名サイトも数多く存在する。だが、なかには失敗や限界に突き当たったものもある。 松原さんは昨年の「レイバーフェスタ2008」を取材し、ニュースで流したある民放キー局について語り、大手メディア報道にありがちな問題点を指摘した。 この局は、記者とビデオカメラマンをフェスタ会場に待機させ、参加者にしきりにマイクを向け、インタビューを取っていた。ところが当日夜にオンエアされた映像は、プログラムの一部分だけ=「ワーキングプア川柳」の部分だけ=を取り上げ、あたかも労働運動とは関係のない、俳句発表会が開かれたかのように編集されていたのだ。この映像には私も驚いた。 ■メディアに問われる「立場性」 2時間の枠のなかで、受講者とともにインターネットを駆使した市民メディアのありかたについて、さまざまな可能性や課題が探られた。特に印象的だったのは、市民メディアは明確な立場性を持たないと、必ず混乱やトラブルが起こるということだ。 たとえばレイバーネットのように、入会者が「3000円の年会費を支払う」という「ハードル」を越えることで、会員に主体性や責任感が生まれ、参加意識を持つというのだ。 「匿名か実名か」についても語られた。ネットに限らず、一定の影響力を持つ媒体への発表には、ペンネームを使う人、実名を公表する人などさまざまだが、ジャーナリズムの領域においても、このテーマは議論が続いている。以下は当日の話ではなく、私の考え方の一端だ。 ■匿名か、実名か 官憲の介入、権力の弾圧から、また悪意の第三者の攻撃から運動と仲間を守るために、匿名を選ぶのは発信者の当然の権利である。商業メディアが、たとえば犯罪報道において加害者の実名を公表する口実が、「匿名では説得力がない」という主張だ。だがこの理屈こそ、実は説得力がない。仮名であっても、記者の記事の書き方ひとつで、実名よりもはるかにリアルな伝え方ができる。一方で、たとえ匿名で報道しても、ネット上にはいつしか実名が流れ、本人の特定が進んでしまうこともある。当事者を不特定多数の中傷や嫌がらせにさらさないためにも、匿名という手段は不可欠である。 「何も悪いことをしているわけではないから、ペンネームを使う必要はない」との志で運動を担う人も少なくないだろう。私もできるだけ匿名は避けている。 それじたいは堂々とした立派な態度なのだが、他者に「売名行為」や「功名心」と誤解されることを恐れ、あえて匿名にするケースもある。動機や事情は人それぞれ、さまざまだ。そうした多様性を相互に認め合いながら、いかに信頼関係を築き、運動に反映させていくのか。 ■「やったら返す」 レイバーネットは「問題があったら対処する」というスタンスを維持している。会員間の定期的な会合が持たれ、問題の解決について話し合っている。直接的には管理者の判断で、写真のトリミングやマスキングなど、刻々とサイト内の修正を繰り返し、正確で品質の高いソースを完成させている。 いずれにしても会員一人ひとりが時代の要求に応える、高い人権感覚を持つことが必要であり、プライバシーの問題も含めた、マイノリティの立場に立った細かい配慮が、情報を提供する側には求められているのだ。有料報道サイトの成否や、レイバーネットサイトの不十分な点についても意見が出た。 「やったら返す」―「やられたらやりかえす」という報復行為ではない。自分が何かに参加したら、それを報告し、情報を広く共有しようという呼びかけだ。フルタイムで仕事を持っている会員にはけっして楽ではない作業だが、多くの人が少しずつ知恵を出すことで、運動はより豊かに実っていくはずだ。 ■一人ひとりが主人公 「目的意識を持って、東京だけではなく、全国から情報を発信してほしい」と松原さんは訴える。 私も集団内の度を越した上意下達や、序列が嫌いである。それは、人間同士の大切な「出会い」を、阻害してしまうのではないかと思うからだ。一人の人間として魅力があれば、黙っていても、人はついてくる。 「一人ひとりが主人公」という信念を持ちながら、絶妙のバランスで、会員たちの発信する情報を手際よくまとめている。ベテランのデスクに、いつも頭が下がる。 初めて参加したが、落ちついた雰囲気のなかでじっくりと学び、ていねいに議論することができる、内容の濃い講座だと実感した一日だった。(Y) Created by staff01. Last modified on 2009-01-11 13:01:43 Copyright: Default |