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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「リダクテッド 真実の価値」「那須少年記」
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●映画「リダクテッド 真実の価値」
暴き続けないと隠され続ける「不都合な真実」が戦場にある

 ブライアン・デ・パルマといえば、土の中からにゅっと手が出てくる「キャリー」のショッキングなラストが忘れられない、ハリウッド映画界の巨匠の一人。その彼がベトナム戦争の実話をもとに、村の娘を拉致し、集団でレイプして殺した米兵の戦争犯罪を暴いた作品「カジュアリティーズ」もよく知られている。

 イラク戦争でも同じような事件は起きている。14歳の少女をレイプし、家族もろとも惨殺した事件がある。ところが、米国内ではほとんどニュースにならなかった。

 そこで再び彼は、この戦争犯罪を告発するために「リダクテッド 真実の価値」という映画を作った。リダクテッドとは、編集の際に不都合な個所を削除することだ。

 最近の米映画には、イラク戦争を素材にしたリベラル派の作品が目につくようになってきた。「勇者たちの戦場」や「告発のとき」など。いずれも帰還兵の戦争後遺症を扱ったものだが、加害者の帰還兵が被害者のように描かれているのが特徴といえる。

「リダクテッド」がこれらとちょっと違うのは、あくまで兵士を加害者としてとらえていることと、同時に彼らがなぜ犯罪に走ったのかが追究されていることである。

 舞台はサマラの米軍駐屯地。そこの検問所で50キロの重装備のまま日がな一日通行車両を監視する兵士たちの日常がとらえられている。戦場でも兵士がビデオを持ち歩く時代になった。一人の兵士のビデオ撮影を中心に、フランスのドキュメンタリー映像、兵舎の監視カメラなど多種多様な映像を組み合わせながらマスメディアには載らない“戦場”の実態をあぶり出していく。

 兵士たちが、少女をレイプする目的で民家に押し入りながら「大量破壊兵器を捜せ」とわめいているシーンなど、ブッシュの仕掛けた戦争の欺瞞性をそのまま反映している。この映画のラストも切なく衝撃的である。

(木下昌明・「サンデー毎日」08年10月12日号所収)

*映画「リダクテッド 真実の価値」は10月25日から東京・シアターN渋谷で公開 写真=(c) 2007 HDNet Films LLC

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●映画「那須少年記」
そんな時代が確かにあったと後からほのぼの思うけれど…

 初山恭洋監督の「那須少年記」のチラシを見たとき、これは栃木県那須地方の観光用映画ではないかと思った。

 果たして画面には、美しく輝く那須連山を中心にした田園風景が広がる。かといって特別宣伝臭は感じられない。というのも、映画はこの地で多感な少年期を送った森詠の自伝風小説『少年記 オサム14歳』が原作なのだ。

 ドラマの時代は昭和29(1954)年で、舞台は黒磯町の中学校。木造2階建ての古びた感じの校舎が当時の学校を思い起こさせ、郷愁をそそられる。そこに、転校してきた2年生のオサムを主人公に、1年近くにわたる出会いと別れの物語が繰り広げられる。

 昭和29年といえば、米国のビキニ水爆実験によって第五福竜丸が被曝し、日本にも死の灰が降って、その恐怖から「ゴジラ」が誕生した年でもあった。また映画の黄金時代で、「シェーン」をはじめ西部劇がはやっていた。オサムが映画館で夢みるトップシーンにそれがよく表れている。

 しかし、映画の魅力は、なんといってもオサムたちの担任、大月先生の登場であろう。マドンナとなるその若く初々しい先生を平山あやが好演している。国語の時間、彼女が詩を朗読すると教室が静まりかえる―このシーンに観客もぐっとこよう。

 また、成績は抜群だが、何かとオサムと衝突するアキラの存在も興味深い。この両者の葛藤は、篠田正浩の「少年時代」を彷彿させる。

 その中で時代性を表しているのは、いつも竹刀を手にした生徒指導の教師と彼に刃向かうアキラたち、そして生徒の主張を認め、凛とした態度で彼らをかばう大月先生との対立だ。これが面白い。すぐ暴力をふるう軍国教育を受けた教師と、戦後の民主主義教育で育った者との違い、確執が浮かび上がってくる。そんな時代があった。

(木下昌明・「サンデー毎日」08年10月19日号所収)

*映画「那須少年記」は東京都写真美術館ホールほかで公開中 (c)2008「那須少年記」製作委員会


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