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特急たから@福島です。

【鉄ちゃんのつぶや記 第32号】参議院選挙を終えて

 参議院選挙が終わった。事前予想通り、やはり安倍内閣への怒りは想像を超えるものだったらしく、自民党は過去最悪に匹敵するわずか37議席に沈んだ。この10年近く、自民党の「悪政推進装置」と化してきた公明党もまさかの1桁議席である。これが自公連立政権に対するこれ以上ない「審判」であることは今さら繰り返すまでもないだろう。以下、選挙結果を総括しておこう。

○今後の国会運営は
 野党側は安定多数を確保した。全野党が一致結束して「与党外し」をすれば、参議院議長を奪った上、すべての常任委員会、特別委員会の委員長ポストを野党側で独占できる数字となったのである。先の国会では、野党が委員長を握っていた内閣委員会で国家公務員法改正案の採決ができなかったため、与党が委員会採決を省略し、委員長に「中間報告」を求めた上でいきなり本会議採決をするという暴挙を行ったが、委員長ひとりにしてこの状況なのだ。常任委員会・特別委員会の全委員長ポストを野党側が独占する事態にでもなったら、自公連立与党にとって先行きは見えている。衆参両院で与党が圧倒的多数を占めていた国会情勢の中、厳しい院外の大衆闘争を闘っていた市民にとって、安倍内閣打倒の目標がいきなり目前に近づいたのだ。

○通用しなかった社保庁労使国賊論
 安倍首相が苦し紛れに持ち出した「社保庁労使国賊論」は、結局今回は全く通用しなかった。「歴代自民党政権がさんざん年金記録不備を放置しておきながら、今になって社保庁労使だけに責任を押しつけるのか」という国民の正当な批判の前に、2匹目のドジョウは現れなかった。
 20年前、国鉄労使国賊論が国民に大きな影響を与えた要因として、2つのことが指摘できる。(1)新自由主義を推し進める支配層の側が「メザシの土光」に象徴されるように、自らの「質素・倹約」を演出するだけの能力をまだ持っていたこと、(2)国民・労働者の側でも「いい大学を出ればいい会社に入れ、いい人生を送れる」「高卒でも一生勤め上げれば家が建つ」という神話がまだ信じられていたこと――である。だからこそ、「質素・倹約する土光さんと怠け者の国鉄労働者」というキャンペーンが力を持ったのである。
 20年後の今日、働いても働いても家が建つどころか家に住むこともできない「ネットカフェ難民」たちが現れ、(2)の前提条件はとっくに崩壊している。(1)の条件にしても同様であり、国民に我慢を強いるため支配層も質素・倹約のポーズを取るというならまだしも、国民の年金をピンハネしながら自分たちは事務所費を架空請求、二重請求ではお話にもならない。これらの現象は、支配層の能力も昔と比べて大幅に低下していることをはっきりと示すものだ。

○拒絶された新自由主義
 今回の選挙で何を争点と考えるかという問いに対し、年金、政治とカネの問題などと並んで格差問題が上位に入っていた。小泉前政権の下で、競争至上主義、市場原理主義の嵐が吹き荒れ、その間隙をついてホリエモン(堀江貴文・ライブドア前社長)が現れたが、多くの若者がホリエモンを支持したのは、彼が実力で勝ち上がり、既得権益を持った旧支配層に挑んでいるように見えたからだろう。
 だが結局、成り上がり者のホリエモンは旧支配層によって倒された。新自由主義は、小泉前首相の言うような「努力した者が勝つ」社会ではなく、既得権益を持った者が勝ち組に固定されるだけの社会である。新自由主義が大好きな支配層は実力主義の社会というが、高卒でも一生勤め上げれば家が建つ社会と、働いても働いても家が建つどころか家に住むこともできない社会とではどちらが実力主義かは言うまでもないだろう。実際には、新自由主義によって日本は実力主義ではなく身分制社会に向かっている。そのことは、ワーキングプアやネットカフェ難民問題を通じて国民の目にもかなりはっきりと見えるようになってきた。有権者がこうした社会のあり方を明確に拒否したのが今回の選挙結果であろう。

○隠れた争点(1)〜「農業」
 選挙直前の7月中旬、「河北新報」紙(東北の地方紙)に「農村部 自民離れ」と題する記事が載った。自公連立政権の下で、政府は「担い手育成」と称し、助成の対象を4ヘクタール以上の大規模農家か20ヘクタール以上の大規模集落営農を行う組織に限定した。これに対し民主党は、農家に対して直接所得補償を行うと公約したが、与党は逆にこれを「ばらまき農政」と批判。東京などの都市部ではあまり知られていないが、地方では農業がひとつの争点だった。
 民主党の主張する「直接所得補償」が有効に機能するかはわからないが、かつては自民党も、大規模化が不可能な中山間地域では直接所得補償を検討していた時期がある(当時は「デカップリング政策」と呼ばれていた)。そもそも、施設を集約することでいくらでも規模拡大が可能な施設利用型農業(畜産、施設園芸など)と異なり、土地利用型農業である稲作、畑作などは簡単には大規模化できない。田んぼをはがしてよその土地に持って行くことはできないからだ。
 日本の農業の中でもコメはすでに食べていける産業でなくなっているが、それでも小規模農家がコメ作りを続けているのは、それが自らのアイデンティティだからである。食べるためではなく、農民としての誇りでコメ作りを続けているのである。そんな篤農たちが、「小規模農家はいらないから規模拡大できないなら去れ」という自民党農政をどのような思いで見ていたかは想像に難くない。全国に29ある地方「1人区」で自民党が6勝23敗の大敗を喫し、東北と四国の1人区で自民党が全滅したのは、こうした「弱肉強食」の自民党農政を農民が明確に拒否した結果と言うことができる。
 逆に民主党は、このような農村の構造を理解していたからこそ、農家への直接所得補償という公約を掲げたのである。実際には、コメ農家のほとんどはこうした小規模農家が担っている。直接所得補償はそうした小規模農家の延命にある程度貢献するだろう。だが後継者不足でジリ貧なのは、小規模農家を延命したところで同じである。大規模化もできず、小規模農家もジリ貧という状況の中で、民主党が試されるのはこれからだ。

○隠れた争点(2)〜「沖縄」
 もうひとつの隠れた争点は沖縄である。周知のように、安倍内閣によって集団自決が日本軍のせいではないと教科書が書き換えられた。従軍慰安婦に強制性はないと、歴史的事実として存在していることを否定しようとした。これだけで、沖縄の人たちの怒りに火がついたことは明らかである。ここ数回の選挙で、自公連立与党に敗北を続けていた野党統一候補陣営が、糸数慶子さんの鮮やかな圧勝に終わったこと、社民党の比例区2位で沖縄の不屈の闘士、山内徳信さんが勝利したことによって鮮やかに示されている。選挙結果は「戦犯の孫」にして希代の反動主義者・安倍首相に大きな打撃を与えるに違いない。

○耐用年数尽きた自民党
 今回の選挙は、自民党の終末の姿をくっきりと描き出した。1980年代までは、伝統的保守主義者、復古主義者から社会民主主義者までを組織した包括政党というのが、自民党に対する大方の見方だったと思う。
自民党の新自由主義的な方向への変質は中曽根「民活」路線の頃から徐々に進んでいたが、それがはっきりとした形で国民の前に現れたのは2001年の省庁再編あたりからだろう。スピーディーな政策実現を図るため内閣府・総務省に権力を集中させ、日本国憲法によって得られた市民的自由を圧殺するため、自衛隊、警察機構など治安機関を飛躍的に強化しながら、国民生活に密接に関係する現業部門の公務機関は民営化で切り売りする。民営化で国家機関がどんどん叩き売りされているのに税負担は減らず、治安ばかり強化されて息苦しい新自由主義が姿を露わにしたのである(ちなみにこの図式は社会保険庁問題でも健在である。不祥事を口実に社会保険庁から仕事を取り上げ、総務省に年金記録確認第三者委員会を設置、一方で社保庁を日本年金機構に改組して売り飛ばす図式である)。
 巷では、郵政民営化を行った小泉首相こそ新自由主義の申し子という声が今でも根強い。それは事実に違いないが、実際には長く続く新自由主義と国防・治安強化の流れの中で郵政民営化はスタートではなくゴールに近いところに位置していると私は思っている。小泉政権は、新自由主義を最終完成させるために現れた歴史的政権だったのである。
 こうした自民党の急激な変質は、言うまでもなく従来の穏健な自民党支持層、「貧しきを憂えず等しからざるを憂う」伝統的保守層や社会民主主義者たちを自民党から脱落させる効果を生んだ。後に残ったのは「純粋新自由主義政党」としての自民党の姿だった。
従来、自民党を支持していたのは、特定郵便局長会や建設業界などの利権集団である。彼らは談合で過度の競争を制限し相互に依存しながら、大企業本位の経済開発をしてくれる自民党の集票マシンとして機能した。
 その構造が、競争至上主義を基本とする新自由主義によって叩き壊された。自民党の有力な支持基盤が失われたのである。小泉政権がそれでも総選挙で圧勝できたのは、集票マシンを叩き壊してもお釣りが来るほどの浮動票を掘り起こしたからである。今回、安倍政権はこの浮動票を失った。おまけに従来の支持基盤も破壊され残っていない。上で書いたように、農村の支持も既にない。自民党は、今回の選挙で文字通り過去の遺産すべてを失ったのである。

○民主党は「遅れてやってきた自民党」
このような自民党の急激な新自由主義化に伴って、脱落していった伝統的保守層や旧来の穏健な自民党支持層を獲得していると見られるのが民主党である。「伝統的保守主義者、復古主義者から社会民主主義者までを組織した包括政党」の地位は今や民主党のものである。そのように考えれば「古い自民党」の象徴である小沢一郎がこの党にいることに納得がいくだろう。
 このまま行けば、民主党はいずれ第2自民党として政権を担う日が来ると思う。だが、保守層を基盤にしたこの政党は必ずしも私たち労働者・市民の味方ではないことに注意しておく必要がある。

 以上、いくつかのポイントに絞って選挙を総括した。他にも、書きたいことはいろいろあったが、別の機会に譲りたい。

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