本文の先頭へ
LNJ Logo とんでもない「朝日」の共謀罪社説
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1146451057855st...
Status: published
View


小倉です。共謀罪が焦点化するなかで出た朝日の社説への私の異論です。(他の MLに昨日ながしたものに加筆しました)

===========================
とんでもない「朝日」の4月28日づけ社説(共謀罪)

朝日新聞が28日づけ社説で、民主党案支持を打ち出しました。私は廃案以外に ないと考えていますが、この朝日の社説は、共謀罪の必要を認めたうえで、民主 党の対案の線での審議を提起しています。朝日の動向はマスメディア全体にもお おきな影響をもちますから、たいへん危惧しています。わたしはこの朝日の社説 には以下の点で反対です。

そもそも朝日の社説は、法案の条文解釈の「政治学」がわかっていません。たと えば、与党案について、社説は

「共謀罪を適用するのは、暴力団などを想定し、「対象となる罪を実行すること を共同の目的とする団体」に限定する。罪となるのは、共謀するだけでなく、下 見をするといった「犯罪の実行に資する行為が行われた場合」という文言を加え る。これが与党案だ。」

と解説していますが、これは、与党の説明をオウム返しにしているだけで、与党 の条文解釈の罠にはまっています。

どのような場合であれ、法案を読む上で必要なことは、以下の点です。
・ 法案に書いてないことは政府・与党がいくら口頭や文書で「解説」してもそ れを信じてはいけない。法案に書いてないことは、法案ではない。
・ 国会審議の過程で与党側が答弁で行った法解釈(とりわけ野党が受け入れや すい解釈)には何の拘束力もない。
・ 国会で口頭で説明しても法案に明記することを避ける場合は、口頭説明を鵜 呑みにしてはいけない。
・ 法案に書いてないのは書けない理由があるからだ、なぜ書けないのかを考え て法案の真意を見抜かなければいけない。

この点をふまえると、朝日の社説は以下の点で間違っています。
・ 共謀罪の適用対象を「暴力団」だと想定しているということは法案のどこに も書いていない。
・ 社説は、団体の限定を「対象となる罪を実行することを共同の目的とする団 体」と鈎括弧をつけて説明しているが、このような定義はされていない。法案に 書かれているのは、「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実 行することにある団体に係るものに限る」である。法案では「罪を実行すること にある団体に係るものに限る」という意図的に意味をあいまいにした表現をもち いているところに着目してこの法案を読みとらなければいけません。この法案が 述べていることは、「罪を実行する目的の団体」という誤解の余地のないもので はなく、「罪を実行することにある団体」というなんとでも解釈できる表現に なっているのはなぜなのかを社説は見落としている。
・ 「犯罪の実行に資する行為」が下見をするとった行為をさす、というのは与 党側の議会対策上の「方便」としての説明にすぎず、法案にはいっさいそのよう な限定はない。

朝日の社説の最悪なのは、これらの説明を与党側の「言い訳」として説明してい ない点にある。法案を読むチャンスのない一般読者は、朝日のこの説明を法案そ のものと勘違いするでしょう。これでは朝日は与党の代弁者といわれてもしかた がないでしょう。

他方、民主党案もたいへん大きな問題を孕んでいます。民主党案では、越境組織 犯罪に限定して共謀罪を適用しようというわけですが、こうした限定をつけたと しても、移住労働者の当事者による組織や支援組織はまるごと共謀罪の適用対象 となります。しかも、現在、日本の多くの市民運動やNGOで国際的な連携をとっ ていないところは逆に非常に少ないと思います。グリンピースやアムネスティの ような組織だけでなく、地域で活動している小さな運動体でもなんらかの海外と の連携をとっているところは多いといえます。

国連の越境(国際)組織犯罪防止条約そのものができた経緯は、90年代以降急 速に拡大し始めた反グローバル化の運動や移民たちの社会運動への抑え込みとい う意図があったことは明らかで、単なるやくざやマフィア対策の条約ではなく、 ポスト冷戦期に登場し始めた新しいグローバルな民衆の運動に対する治安維持の 国際法という側面があります。この点を忘れてはならないと思います。くりかえ しますが、国際組織犯罪に限定するという妥協案は、限定ではなく、むしろ日本 のエスニックマイノロティをターゲットとして監視する差別的な法案になるとい うことであり、隠されたレイシズムであるということです。

さらに、朝日の共謀罪原則賛成のスタンスには二つの大きな問題があります。ひ とつは、共謀罪が、戦後日本の警察の基本的な性格を根本から変える恐れがある ということを完全に見落としているという点です。戦前・戦中の警察が治安維持 警察として、予防検束など犯罪捜査機関とはいえない性格を強く持っていたわけ ですが、その反省として、戦後の自治体警察と刑事司法のルールは、発生した犯 罪に対する捜査を基本とする法制度の枠組を基本としてきたはずです。共謀罪は 明らかにこの戦後の刑事司法の基本原則を覆すことになります。この点を朝日の 社説はまったく考慮してない。

もうひとつの問題は、共謀罪と呼ばれる法案が、コンピュータ監視法案と一体の 法案として提起されています。なぜ一体のものとして提案されているのかは、す でに別の文章で述べました。(注)後者は明らかに報道に自由、とりわけ取材源 の秘匿を不可能にするものであるにもかかわらず、朝日の社説はこの点を考慮し て共謀罪を理解していません。これではジャーナリズムが自分で自分の首を縛る ようなものです。
(注)
http://alt-movements.org/no_more_capitalism/modules/weblog/details.php?blog_id=18

朝日の社説のように、国連の条約を鵜呑みにし、民主党の修正案か自民党案か、 という共謀罪を前提とした議論が支配的になると、廃案という主張が一気にふっ 飛んでしまいます。その結果、またもや、ターゲットになるのは移住労働者や外 国籍のマイノリティということになる。現在の日本の治安維持体制の傾向からす れば、こうした限定でもよいから共謀罪を成立させることに「メリット」がある と考える右派は多いということに私たちは十分警戒したいと思います。共謀罪廃 案までがんばりましょう。

======================
参考
朝日社説 4月28日
共謀罪 乱用の余地を残すな

 犯罪を実行しなくても、何人かで話し合って合意しただけで罪になる。そうし た「共謀罪」をつくろうという法案の審議が衆院法務委員会で始まった。従来の 政府案に加え、与党と民主党がそれぞれ修正案を提出している。

 麻薬や銃の密輸などの国際犯罪や暴力団犯罪の取り締まりを強めるのがねらい だ。もともと政府が組織的犯罪処罰法の改正案として提出していた。

 これに対し、私たちは社説で、共謀罪の必要性を認めたうえで、「共謀罪の規 定があいまいなため、組織犯罪だけでなく、市民団体や労働組合も対象にされか ねない」と指摘し、「対象を絞って出し直せ」と主張してきた。日本弁護士連合 会などは「思想の取り締まりにつながる」と批判していた。

 与党と民主党の修正案は、こうした批判に応えたものだ。

 共謀罪を適用するのは、暴力団などを想定し、「対象となる罪を実行すること を共同の目的とする団体」に限定する。罪となるのは、共謀するだけでなく、下 見をするといった「犯罪の実行に資する行為が行われた場合」という文言を加え る。これが与党案だ。

 政府案より対象を絞ろうとする姿勢は評価したい。しかし、条文はやはり抽象 的でわかりにくい。拡大解釈の余地が消えたとは言えない。

 それに比べ、民主党の修正案はすっきりしている。対象とするのは「組織的犯 罪集団」とはっきり書く。対象となる犯罪は国際的なものに絞る。罪を問われる のは、共謀した者が犯罪の具体的な準備をした場合に限る。

 国際的な犯罪集団に対象を絞ろうという姿勢が明確になっている。「自分たち も共謀罪の対象にされるのではないか」と心配する市民は少なくなるだろう。

 政府はホームページで「共謀罪が適用されるのは、暴力団のような組織的な犯 罪」「仲間で漫然と相談したり、居酒屋で意気投合したりするくらいでは共謀罪 は成立しない」と説明している。

 そう言うのなら、もう一歩進めて、民主党案のように「組織的犯罪集団」しか 対象にしないとはっきり書き込むべきだろう。法律はいったんできあがれば、捜 査当局によって都合よく解釈される恐れがある。それが怖いのだ。

 ここは原点に戻って考えてみたい。そもそも共謀罪をつくろうという背景に は、暴力団やマフィアによる国際犯罪に対抗するため、6年前に国連で採択され た国際組織犯罪防止条約がある。日本も署名したが、加盟国になるためには共謀 罪などの国内法を整備する必要がある。

 この条約の本来の趣旨を生かすには、いくつかの国にまたがる組織犯罪に限定 するだけで十分だろう。

 共謀罪をつくるにあたっては、乱用の余地を残してはならない。国民の権利を 大きく侵害しかねないからだ。対象を厳しく限定した民主党案を軸に、国会で じっくり論議してもらいたい。


Created by staff01. Last modified on 2006-05-01 11:37:38 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について