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News Item 20050512m1
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・JRグループの全体的事情

まず、JR西日本固有の事情に触れる前に、JR発足時の事情からご説明する必要があるように思います。

ご存じのように、JRは旧国鉄を解体・再編して生まれた企業です。

国鉄改革法が成立して民営化が決まった際、国鉄では「真の民間企業になるため」の企業人教育が行われましたが、この企業人教育は、本当の民間企業が実施しているようなものではありませんでした。

民間企業が実施する研修は、接遇、一般常識、現場体験など職務への知識・適性の付与、対人関係の構築を含めた業務遂行能力の向上を図るためのものですが、旧国鉄の企業人教育は「確実な命令の実行」といった、上意下達を基本とするきわめて管理的、強権的色彩の強いものでした。そして、この方針についていけない職員、分割・民営化を認めない職員は「人材活用センター」に収容され、草むしり等の懲罰的な単純労働で処遇するやり方が採られました。仲間から隔離され、懲罰的単純労働に服させる国鉄当局の方針は「人材育成」のための研修とは対極にあるものです。

そして、一企業一組合が主流を占める日本の中で、もともと職能別(運転士、施設勤務者といった具合)に複数の労働組合が並立していたものが、分割・民営化への賛否をめぐって「労労対立」に発展。複数の労働組合が存在する場合には使用者は特定の労働組合のみを優遇してはならないとする労組法、公労法等の規定に反する形で、労使協調路線を取らない労働組合に対してだけ見せしめ的解雇処分が行われました。

こうしたJR発足時の懲罰的・強権的な労務管理体制が、新生JRの企業体質に決定的影響を及ぼしたものと私は考えています。発足から18年を経た今でも、組合間の差別的取り扱いは常態化し、物言わぬ労働組合にだけ特権的地位を与えるという歪んだ労務管理体制が、職場におけるチェック体制の崩壊、技術・安全の軽視、社員への管理強化、社員間のチームワークや仲間意識・人間関係の崩壊といったマイナス効果を生みだしました。この体質は現在も継続しており、基本的に変わっていません。組合の対立関係も同様であり、JR旅客6社・貨物1社の計7社で、労働組合が統一した会社は1つもなく、良好な労使関係(なれ合いではなく、適度な緊張関係を持ち、労使がチェックし合いつつ相互発展できるような関係)が築かれている会社もありません。

・JR西日本の固有事情

これに加え、JR西日本固有の事情として、「他の本州2社と比べて収益性が低い」という事実があります。

JR発足当時、3島会社(北海道・四国・九州)も含めてある程度収支均衡した経営ができ、かつ本州3社が儲けすぎにならない程度の全国統一運賃を国鉄が設定する形でJR各社に引き継ぎました。その後、3島会社は全国統一運賃から離脱し、独自の割増運賃を設けていますが、本州3社は現在も統一運賃を続けています。しかし、その本州3社も経営基盤はまちまちであり、西日本でもっとも統一運賃の歪みが大きくなっているように思います。 JR東日本・東海・西日本のうち、東日本は大手私鉄15社中8社(東武・西武・京急・東急・小田急・京成・京王・相鉄)と競合しているものの、山手線のように利益100円当たりコストが45円というドル箱路線を首都圏に多く抱え、東北・長野新幹線も収益性はよいと思われます。超高収益路線の東海道新幹線を独占し、競合する大手私鉄が名鉄1社のみで、在来線でも目立って収支の悪いローカル線がない東海は国鉄分割・民営化でもっとも利益を受けた会社だといえます。

これに比べて、西日本は儲けの出る路線が山陽新幹線と京阪神地区に限定されながら、大手私鉄15社のうち5社(阪急・阪神・近鉄・南海・京阪)と競合関係にあります。ローカル線の比率も高く、特に中国地方では山陽本線、山陰本線、伯備線以外はほぼ全路線が旧国鉄時代の特定地方交通線(廃止対象路線)と同等かそれ以下の水準という状態です。

・事故を生んだ体質

このような状況から、JR西日本が東日本・東海と同一運賃を維持しながら同一の利益を達成するためには、相当の無理をしなければならないことは明らかであり、実際、ここ数年のJR西日本は鉄道ファンの私から見ても相当に焦っている状況が見えます。消防隊員が列車にはねられた少年の救助活動を続けているのに、安全確認をせず列車の運行を再開し、結果として消防隊員が運転再開後の後続列車にはねられ死亡するという信じがたい事故を起こしているほか(2002年11月)、山陽新幹線で、ATCが故障して作動していないのに平気で運行を続ける(2003年5月)という事故も起こしていたからです。こうした事故はもはや常軌を逸しており、儲けのためなら何でもありというJRの醜悪な本質を余すところなく示しています。

加えて、JR西日本の場合、他社で起きた事故と結果において同じでも、フェイルセーフが機能しているが故の事故ではなく、フェイルセーフ欠落による事故である点が違っています。信楽高原鉄道事故の際もそうでしたが、JR西日本の事故が、他社の事故と比べてことごとく大事故になっているのは、この点が大きいと言えます。(フェイルセーフとはなにか、その欠落が何を意味するかはもう一度ホームページをご覧ください。)

ある鉄道ファンが、「他のJR各社はただの過密ダイヤだが、JR西日本は“過酷ダイヤ”だ」と言っていたのはなかなか的確な表現だと思います。そもそも運転士にとってみれば、運転席は列車の最先端にあるわけですから、事故とはすなわち真っ先に自分が死ぬことを意味します。誰にとってもひとつしかない自らの「命」のことさえ考える余裕もないほどに運転士が追いつめられるとはいったいどんな会社なのだろうと、世間やマスコミのみなさんが不思議に思うのも当然です。

・なぜ脱線が起きてしまったのかなど

今回の脱線は、技術論だけを語るなら、政府の航空・鉄道事故調査委員会が結論づけた「転覆脱線」でほぼ間違いないものと思います。ただ、一般に置き石くらいで列車は脱線しませんし、速度違反があったにしても、10キロ〜20キロ程度の速度超過で脱線する確率はそれほど高くありません。一般論として、遠心力は速度の2乗に比例するので、70キロ制限を100キロで走行すれば遠心力はほぼ2倍になるわけですが、車体が傾きさえしなければ線路・軌道の許容値の範囲内と考えます。

今回、23歳の運転士は「マスコン」(マスターコントローラー、自動車でいうアクセル)とブレーキを同時に入力している痕もあったと伝えられます。自動車の場合、運転テクニックとしてアクセルとブレーキを同時に踏むことは希にありますが、鉄道では動力をかけながら同時に制動をかけることは全くと言っていいほどありません。私鉄を中心にマスコンとアクセルが1レバー式(1つのレバーをある方向に倒せばアクセル、逆方向に倒せばブレーキになるもの)の車両も導入されているのが何よりの証拠です。今回、若き運転士を一種このような「錯乱」とも言える状態に追い込んだ背景に何があったのか…私は、すでに述べた「JR西日本の企業体質」でほぼ説明ができるものと考えています。

・まとめと結論〜儲けから安全へ、カネから「人間」へ

NHKのニュース番組でも先日、「匿名」のJR現役運転士が「顔を隠し」て、局側から「会話音声を変え」てもらった上で日勤教育の実態を語る場面が放送されましたが、100名以上の乗客の尊い人命が失われた事故の直後でありながら、当事者である会社の社員が「顔も声も名前も消す」ことによってしか列車の安全を語れないような体質の会社に未来がないことははっきりしています。今こそ儲けから安全へ、カネから人間への回帰が急務であると思います。

日本をお手本に国鉄を民営化した英国では、列車の運行と保線を別会社に分離する「上下分離方式」を採用し、競争入札によって100社以上の会社が鉄道事業を巡って群雄割拠した結果「手抜き保線」が横行し、ついには列車の重みでレールが粉砕されて列車が脱線するという信じられない事故が起きたことで、日本より一足先に国鉄民営化が失敗だったとの結論が出されつつあります(「折れたレール」クリスチャン・ウルマー著より)。今回の事故も、何年か後に「今思えばあの事故が転換点だった」として歴史に刻まれる事故になるかもしれませんし、現実にその可能性は高いと思います。現在、道路公団や郵政の民営化が推進されていますが、こうした公的なインフラの運営を全面的に「市場原理」に委ねることの是非について、冷静な国民的論議が必要な時期に来ていると考えます。今、受信料制度の形骸化が深刻な事態を迎えているNHKさんにとっても他人事ではないと思いますので、是非ともこうした観点からこの事故を再度掘り起こしていただきたく思います。そうすれば、JR西日本での大事故発生を1999年段階から予言してきた私としても、少しは報われる思いです 。

<筆者/特急たから・「闘争団とともに人らしく」管理人>


Created byStaff. Created on 2005-05-12 11:07:26 / Last modified on 2005-09-05 03:00:25 Copyright: Default

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