韓国の「ニューライト」
いま、韓国で竹島/独島問題について冷静なグループは、PD系の左派と、もうひとつ、「ニューライト」と呼ばれる新保守主義者たちだ。
彼らの多くは80年代に学生運動や民主化闘争をしてきたグループで、現在40代の新進気鋭の知識人が中心。かつて、ある者は主体思想派、ある者はマルクス主義者だった。いわゆる「進歩」陣営の一員だったのだが、韓国の「進歩」に限界を感じて「自由主義」を掲げて保守に転向した。彼らが掲げる看板は「自由主義」だが、伝統的なリベラリズムの訳語としての自由主義ではなさそうだ。思想的にはネオリベラリズムか、むしろリバタリアニズムの系列に属する。
何だか日本の「元全共闘、今つくる会」みたいな感じもするけれど、「つくる会」ほど復古調・民族主義的ではない。グローバリズムと競争を是とするあたりは、いわゆる保守と一線を画す。形容矛盾のような気もするけれど、「未来志向」の「保守」と言えるかもしれない。とはいえ、「親日派」のバッシングへの批判や、朴正煕の肯定的な評価などでは、従来の保守と一脈通じるものもある。軍事政権時代を否定的にとらえる韓国内の雰囲気は「自虐的」だというあたりは、あるいは日本の「つくる会」周辺からの影響かもしれない。
韓国のニューライトの主張は、最近の日本の支配的な風潮と通じるものがある。ニューライトのリーダーの中には日本の早稲田や慶応に留学していた経歴を持つ人もいるので、何らかの形で日本の思潮が影響しているのかもれしない。
たとえば「独島」問題については、「日本の島根県みたいな田舎の県のことぐらいで騒ぎ立てるのは、相手の思うつぼだから、冷静に事実をもって対応し、良好な日韓関係を維持する方が得策」といった感じ。慰安婦問題にしても日帝特有の現象ではなく、普遍的な女性に対する人権侵害のひとつとして対応しろ、といったような見方だ。経済的には、国際的な開かれた市場を前提とする新自由主義で、小さな政府を指向する。そして北朝鮮についても宥和一辺倒ではなく強硬な対応も必要だし、それ以上に北朝鮮の人権の現実を変えなければならず、金正日体制は間違っているという。
歴史認識については、日本占領時代も朴正煕にも、否定すべき点はもちろんあったが、肯定的な部分もあったという。だから最近の親日派の追求には否定的だし、朴正煕はとにかく悪かったというような論調にも否定的だ。当時はそういう時代だったのであり、親日派と呼ばれる人もそれぞれの置かれた状況で最善を尽くしてきたのだし、軍事政権時代もしかり、今の尺度で過去のすべてを断罪することはできないということだ。
外交関係は伝統的韓米同盟を基軸として日中との間で良好な関係を形成していかなければならないという。
全体として、金泳三時代の方向性に似ていると言えるかもしれない。盧泰愚は軍事色が強すぎたし、金大中は北朝鮮に近すぎた。盧武鉉は「オールドレフト」色が強すぎる。もっともニューライトは金泳三時代のいわゆる「三金政治」を古い保守として否定するわけだが。
もちろん、現役の左派はニューライトに批判的だ。
結局、主流に乗れなかった左派の落ちこぼれがカッコつけてるだけだという。落ちこぼれ左派は、市民運動などに行くことが多かったのだけど、市民運動にもいけなかった落ちこぼれ、というわけ。現実の認識についても、新自由主義の問題点をまったく無視しているという。
新自由主義的な政策にしても、これまで金泳三時代から金大中、そして現盧武鉉政権に受け継がれている。現政権と違いがあるとすれば対北政策だが、「政治浪人」のニューライトは勝手なことは言えるよね、という調子。
今のところ、彼らはそれほど大きな影響力を持つ集団ではないが、左派の酷評をよそにある程度の支持を得つつあるようだ。将来は政治勢力化を狙っているとも言われる。盧武鉉の急進的な政治ではなく、またハンナラ党の古くさい保守でもない、新しい自由主義を信条とする中道保守勢力である。これまでの左派政権建設の過程で「権力」化した左翼勢力や市民団体、インターネット新聞などに対して「自由主義」を掲げて挑戦しようとする。
昨年11月に発足したニューライトの陣営は、今年の3月にはシンク・ネットというシンクタンクを立ち上げ、着々とニューライト勢力の組織化を図っている。
長い間、韓国社会が慣れ親しんだ左右の力関係にくさびを打ち込もうというのだから、それほど簡単ではなさそうだが、あるいはこれまでの政治に満足していない層を中心に、何かのきっかけでブレークするかもしれない。韓国の政党は、民主労働党を除けば強力な政治理念を持たない。ニューライトが新政党を立ち上げる条件が整ったとき、与党のウリ党や野党のハンナラ党から大挙流入する可能性もある。
左派の民主労働党は、労働組合を基盤に議席を確保したが、このままニューライトが政治勢力化の努力を重ねていけば、現在は盧武鉉を支持している都市の裕福で保守的な中産階級浮動層から支持を得るのではないだろうか。まだ海のものとも山のものとも知れない小さなグループだが、一度左に旋回した韓国の政治を右側に揺り戻す勢力になる可能性はありそうだ。