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2019/03/24 2/2〜3/24「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」前橋駅

【展覧会】
「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」

2/2(土)〜3/24(日)水曜定休
アーツ前橋@ArtsMaebashi
前橋駅北口から徒歩10分

中国、インド、東南アジア各国の社会運動の媒体として作られた木版画。抑圧された人びとの苦悩と表現することの光を感じます。#闇に刻む光 展、新聞紙用の紙に印刷されたチラシがインパクトあります。


http://artscape.jp/report/curator/10152112_1634.html
「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」展
人々の間で共有されるイメージとしての木版画
ヨーロッパの近代化と比較するとき、東南アジアから東アジアに広がる地域の近代化は、民族や宗教の多様性と植民地化による影響が大きな違いを生んでいるはずである。さらに、社会が産業化する時期、独裁や社会主義政権が生まれる時期、民主化や脱植民地の運動が活発になる時期、そして資本主義の影響が濃くなる時期が各地域によって異なり、そのことが社会と芸術にも独自の相貌を与えている。

湿潤な地域で手に入りやすい木材を使い、特別な訓練を受けなくても比較的容易に表現ができる木版画は、近代化によって激変する社会に翻弄されつつ、周縁化された人々が置かれた状態を伝え、その実践を通して自らが変容していくうえで重要な役割を果たした。昨年から今年頭にかけて福岡アジア美術館で開催され、2月2日(土)よりアーツ前橋に巡回する「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」展(以下、「闇に刻む光」展)では、鑑賞のための芸術ではなく、社会と個人の両方を変えていく道具となった木版画表現を振り返る。言ってみれば、美術の歴史を別の視点から眺めることになる展覧会だ。それは美術を洗練された視覚表現としてではなく、直接人の心に訴えかける力を持つ手段としてみなす。もちろんそのなかには巧みな構図や繊細な表現も見られるのだが、多くは技術的な洗練ではなく、感情に強く働きかける目的でつくり出されている。立派な額縁に収まらず、複製イメージとして多くの人々の手に取られた木版画には、熱い感情が濃厚に詰まっている。

ホン・ソンダム《五月─25大同世─1》(1984)福岡アジア美術館所蔵

ハーバード大学のドリス・ソマーは『The Works of Art in the World: Civic Agency and Public Humanities』(Duke University Press、2014)という本のなかで、主に中南米圏で社会を変えていくアーティストたちや政治家たちの実践例を紹介しながら、フリードリヒ・フォン・シラーの芸術の自由を探求する美学、ジョン・デューイのプラグマティズムなどを経由することで芸術の実用的な側面を強調している。「人文主義の実用性を示すことは、市民の教育に関与することを回復し、自由を感じるふたつの段階を区別するだろう。それはつまり、私利私欲がない悦びとして市民が受けとる芸術的な自由と、自らの判断を芸術が更新させ発展させる政治的な自由である」(同書、p.101)。彼女が、欧米以外の芸術を広く見渡していくことで見出したのは、芸術的な自由によって政治的な自由を得られることであり、それらを通して人文主義や芸術が役に立つことをこの本を通じて説いている。この本は、日本の労働運動史および芸術と社会運動の関係を研究し、本展の関連イベントで3月16日にレクチャーをしてもらう予定のワシントン大学のジャスティン・ジェスティ氏に教えてもらった文献である。欧米のアートシーンでは、アルテ・ユティルと呼ばれタニア・ブルゲラらが推進する「実用の芸術」が関心を集めているが、非欧米圏の文学を専門とする著者は幅広く世界を見渡し、そこには別の芸術のあり方が見出せるということを近代以降の哲学や美学を辿りながら説得的に示している。それは昨今の美術における社会的転回に歴史的な視座を与えるものであり、近代以降の芸術が辿った道のりを複数のものとして描き出す。

「闇に刻む光」展もまた、そうした社会を変革していく個人の意思の表われによって近代の芸術を描き出そうとする点で類似した視座に支えられている。東京国立近代美術館で昨年行なわれた「アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960-1990年代」展もやはり広くアジア地域の美術を横断的かつ歴史的に見渡すものだったが、そのトランスナショナルな視点の置き方はかなり俯瞰的と言え、この「闇に刻む光」展が個別の社会問題と向き合う個人の生の側に立つ表現に着目したのとは対照的だった。近代は新しい権力や政治体制をつくり出したが、個人を縛り付けていた各種制度から自由になるための実践の歴史としても眺められるはずであり、個人主義と市場がぴったりと結びつき経済的な価値が力を増すように見える現在のアートワールドを批評的に見つめ、きっと美術表現が持つ可能性を複数化して考えるよう迫るだろう。

ソマーが辿ったように社会に働きかける表現のメディアは多岐に渡るのだが、この展覧会はとりわけメディアが木版画に絞られることで、周縁化された人たちの初期衝動のような感情がよく現われている作品が多い。その点は企画者である福岡アジア美術館の黒田雷児氏の明確な意思が込められているように思える。安価な道具で、かつシンプルな線で彫られているためどんな紙を使っても、拡大されてもイメージの強さが失われない。ネット社会の誕生以前から、マスメディアを経由せずに個人が直接発信できたメディアが木版画である。そうした伝達力の利点が多くの人たちを魅了し、資金力に劣る社会運動を推進した。生産されたのは占有されるイメージではなく、人々の間で共有されるイメージだったわけである。また、制作過程においても複数の人が関与することができ、連環画のような制作手法も採られた。疎外された個人にとって多くの人たちと連帯できる可能性は大きな魅力であったに違いない。アジアの美術の歴史のなかに潜在する特徴を見事に描き出したこの展覧会には、福岡アジア美術館のネットワークと長年積み重ねてきた調査が見事に結実している。別の場で言及したこともあるが、シンガポールにも香港にも先駆けたこの美術館が持つ蓄積は、いまこそ活かされるべきであるように思える。

小さな集団から発される現在のアジアの表現
オギン・コレクティヴ《オギン・アパートメント・プロジェクト》(2009-2010)

アーツ前橋の会場では、福岡会場で展示されていた木版画作品群に加えて、オギン・コレクティヴとイルワン・アーメット&ティタ・サリーナという韓国とインドネシアのアーティスト・コレクティヴの展示がある(※オギン・コレクティヴは作家都合により、会期スタートの直前に展示の取りやめが決まった)。同じように、アジアでは社会問題に関与するアーティストたちが小さな集団をつくる活動が近年目につく。彼・彼女らは映像やパフォーマンスなども含め幅広いメディアを扱うが、社会との向き合い方、あるいはメディアの使い方や、連携や協働のあり方をめぐって、木版画運動と対比することで両者の特徴が際立ってくるのではないだろうか。イルワン&ティタは前回の連載で紹介したので、オギン・コレクティヴについて紹介しておくと、彼らは再開発によって取り壊される予定のアパートの住民たちと失われてしまう生活や建物を丁寧に見つめるためのプロジェクトを実施した。住民たちを管理し、抑圧する側が行使する政治や市場の権力はかつてよりも見えづらくなっている。テクノロジーによる不可視化だけでなく、異議申し立てや抵抗の理由がかつてよりも個別化しているためでもある。半世紀前は社会運動が掲げる行動の目的は多くの市民にとって共有できるものだった。しかし、それらは個別の人々が抱える多様性を覆い隠すものだった可能性もある。脱産業社会化した地域では、ジェンダーや民族性、あるいは所得格差といったもっと複雑な問題が個人にとって抜き差しならないものとして浮上してきている。そこでは倫理的な問いかけは一般化できず、個別的でかつ可変的になる。したがって芸術の役割も、共通のメッセージや闘いを生み出すことではなく、むしろ個別の知識や経験を共有するためのものになっていると言えそうだ。

このように同展は、昨今世界的に進められている近代以降の芸術の歴史を見直す視点を共有しつつ、相次ぐアジア美術の展覧会としても別の角度から眺めることができる内容になっている。例えば、今回主要な位置を占める韓国の民衆芸術は、ソウルのアートスペース・プールを中心に着実に次世代にバトンタッチされている。ここで木版画が持つ際立った特徴から照射された別の美術への想像力は、アジアや非欧米圏において進展しつつある探求である。ぜひ、見慣れた表現を別の歴史的な文脈から再考する、そんな機会を多くの皆さんに楽しんでもらいたい。

闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s
会期:2019年2月2日(土)〜3月24日(日)
会場:アーツ前橋(群馬県前橋市千代田町5-1-16)
公式サイト:https://www.artsmaebashi.jp/?p=12321

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