郵政版オレオレ詐欺
【第一話・特定郵便局長の場合】
「オレだ!オレ、オレ!」「ア、アナタ?!アナタなの?!」。受話器からのあまりに切羽詰まった声に、妻のユウ子は動転した。「バレタ!バレちまったんだよ!」「マア!アナタ!ど、どうしましょう?!」「金だ!金を振り込んでくれ!」「エッ?!買収するの?郵政監察官って買収できるの?」「そうさ!簡単にできるさ!」。
妻の郵子は何ら疑うことなく、多額の金をすぐ振り込んでしまった。なぜ郵子が信じてしまったのかというと、話の筋が通っていたからだった。たった一つの矛盾点もなかったからだった。
特定局長の夫は、長年の間、大口の別納郵便を顔見知りのメール業者から局の地下で立会者無しで受取り帳簿をごまかして、億の単位で私腹を肥やしてきたのだった。この手の話は時々マスコミ報道されているが、それは氷山の一角にすぎない。
また、同特定局の副局長でもある妻の郵子は、八王子郵便局で4・28首切りという出鱈目をやらかした持田集配課長がその後出世して郵政監察官の地位をゲットしたこと等も知っていたので、つまり、監察官は人格や品格を基準に選ばれるものではないことを知っていたので、「買収は簡単」とのオレオレ詐欺師の言葉に疑問をはさむ余地はないと思ったのだった。
<この小説第一話の教訓> 特定局長宅へのこの種の「なりすまし詐欺」電話が多発する可能性がある。10軒への電話で1〜2回も成功するとなれば、こんな効率の良いことはない。この被害に遭わないためには、第一に、私有制・任用制・世襲制の特定局制度を撤廃する、第二に、首切り管理者のような品位に劣る者を監察官にしない、ということで、とても教訓に満ちたお話でした。
【第二話・郵便局中間管理者の場合】
「オレだ!オレ、オレ!」「オ、オヤジ?!オヤジなの?!」。受話器からのあまりに切羽詰まった声に、息子の大学生タク雄は動転した。「自動車事故!人にぶつけちまったんだよ!」「ワオ!オヤジ!ど、どうしよう?!」・・・「電話を代わりました。現場立会の警察官です。今なら身柄を拘束せずに示談で済ませられますが」(最近のオレオレ詐欺は巧妙になり「劇団型」へ移行している)。
息子の貯雄は信じてしまった。郵便局営業集配課副課長のオヤジは、誤配・遅配・未払い残業・人権否定のトヨタ方式全局実施で精神的・肉体的に過労状態だったし(実際、中間管理者の自殺が複数起こっている)、上司の受けを良くしようと(郵政公社高橋副総裁はトヨタ出身)割とひんぱんにリコールを繰り返しているトヨタ車に買い換えたばかりだったからだ。
貯雄は偽警官に言った「トヨタ方式=上部指導の方に重い責任があるので、示談金は局長なり総裁なりに払わせられないでしょうか?」「それは無理ですね。4・28処分だって、指導部ではなく指導に従った闘争単純参加者に一番重い処分を郵政当局はだしているでしょうが」(最近の詐欺師はよく勉強しているのだった)。貯雄は食い下がった「でも東京高裁は6月30日に、4・28は不当処分だと判決しましたよ」。偽警官は反論した「ところが郵政公社は判決に違反して、職場復帰を拒否しているじゃないですか」。可哀想に、貯雄は論破されてしまった。だがしかし・・・
偽警官は調子づいて「被害者は貧乏人でして、お父様も同情して手厚い示談金をと申されています」と言ってしまい、これで嘘がばれてしまったのだった。貯雄は知っていた。オヤジが日常普段、トヨタ方式など上部からの無理難題を下部へ、とりわけ非常勤労働者へシワ寄せし、勝手に労働時間を半減して生活できなくさせたり、規則通り忌引き休暇を要求しただけで雇い止め解雇したり等々、貧乏人に同情するタイプではありえないことを!
<この小説第二話の教訓> 4・28免職者の即時就労を等々、数えたらキリがないほど教訓に満ちたお話でしたが、特段の教訓としては、「詐欺師の皆さん!あなた方以上に郵政管理者の方が非情なのでクレグレもご注意を!」ということです。
名古屋哲一(郵政4・28免職者)
*タイトルはレイバーネット編集部