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Document 20070607
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●『コマンダンテ』

オリバー・ストーン監督本人が
カストロ首相をインタビュー

20世紀の半ば”第三世界”とよばれた国々では、植民地支配からの解放を求める独立運 動が盛んだった。なかでも米国支配下のバチスタ政権を倒したカストロ率いるキューバ 革命は、世界の若者を熱狂させた。米国の10人の歴代大統領は、喉にささったトゲのよ うなこの小国をつぶそうとやっきになって戦争をしかけ、経済封鎖をしてきた。それで もキューバの「革命」は生き残った。どうしてか?

映画「コマンダンテ」は、オリバー・ストーン監督自身が02年、当のカストロに30時間 に及ぶインタビューを敢行したもの。「プラトーン」の監督はハリウッドの第一人者。 その彼が政府から敵視されている人物に会って、政治的事件や政治家の印象、地球の問 題や私生活についてあけすけに聞いている。これが面白くなかろうはずがない。それも 執務室から車の中、美術館、医学校や教会、さらに街の通りを歩きながら、警護もなく 二人で肩を並べて。そんなとき民衆が寄ってきて「フィデル」とか「コマンダンテ」と か声をかけ、カストロは話を中断して彼らに応じて握手したり話しかけたり。そこから 民衆に親しまれ、敬われている姿もうかがえる。

質問の一例。ケネディ暗殺についてのカストロの見解。
「照準器つきの銃で狙撃する場合、あのような距離で的に当てるのはむずかしい。発射 した銃は動くので狙い直す必要があり、単独であんなに何度も撃てない。陰謀の可能性 が高い」うんぬん。

ストーンが映画について尋ねると、「グラディエーター」も「タイタニック」も観てい るという。若いころ好きだった女優はグラマーなソフィア・ローレンとブリジット・バ ルドー。男優ではチャップリン。かれの映画はもう一度全部観たい、とも。

独裁者についての質問に「私は国民の奴隷だ」と。「密告」問題では質問をはぐらかす シーンもあったが、監督のとっぴな問いにも率直に対応していてカストロの姿勢に好感 がもてた。そして、話が核心のキューバ危機やゲバラとの別れに及ぶと熱が入った。素 顔のカストロの貴重なフィルム。ただし、めまぐるしい映像展開が難点かも。

なお、米国では上映が禁じられている。渋谷ユーロスペースで上映中。(木下昌明)

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●『選挙』

自民党選挙から“日本”を見る
記録映画「選挙」がおもしろい

先日、日本語ペラペラのフランス人に会った時、「『選挙』という映画はおもしろい。 『握手をする時は必ず相手の目を見なさい』っていう」と登場人物のセリフをまねて笑 わせた。彼は2月にパリで観たというが、ベルリン映画祭でも「日本の選挙の特異性」 に、観客席は驚きと笑いに包まれたと日本のマスコミも報じていた。

想田和弘のドキュメンタリー「選挙」は、日本でも7月の参院選を前に6月9日から渋 谷シアター・イメージフォーラムなどで公開されるが、「日本の選挙は、このままでい いのか」と考えさせられる。

映画は05年10月に行われた川崎市議会議員の補欠選挙(1人)に焦点をあてている。自 民党から公認された新人の奮戦記で、主人公は東京の下町で切手・コイン商を営んでい た山内和彦(40)。政治家になる野心を抱き、市民派的な選挙を夢みていたが、他の議 員や後援者から「握手」のしかたや、街頭での演説で「3秒に1回は自分の名前を入れ るように」といった忠告をやたら受けることに。党の「ムラ社会」のような組織にがん じがらめになっていく。

候補者が連れていかれる所は幼稚園の運動会や老人会のスポーツ大会や祭礼などで、ラ ジオ体操をしたり、みこしを担いだり……そこでは政治の理念や政策よりも、有権者と の一体化で仲間意識を強調することが優先する。山内の妻も「妻」ではなく「家内」と いってあいさつしろとか、「会社をやめなさい」とか、いっしょに翻弄される。

監督の想田は「日本の選挙には”伝統芸能的なもの”を感じた」と語っている。彼と山 内は東大時代の同級生だが、想田が長らくニューヨークに住んでいたので、山内に密着 しつつも、その状況を外から「観察」するように撮ることができた。それによって日本 の観客にも日本の選挙はこれでいいのか?の問いかけになっていた。映像技術もなかな かのもの。(木下昌明)

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●『Watch with Me』

死にゆく者が撮った「故郷」は?
「写真好き」にはたまらない映画

記憶というものは、どこか頼りなくおぼつかないもの。そこで「遠い過去の人々」を思 い出すのに、一枚の写真が手がかりになることもある。そのとき、写真は過去への「懸 け橋」となる。

瀬木直貴監督の「Watch with Me 〜卒業写真〜」は、写真が大きな比重を占める映画だ 。主人公の元報道写真家、上野和馬はがんに侵され余命いくばくもない。妻に介護され 、故郷の久留米に戻ってくる。入院したのは同級生の医師が勤務するホスピス。その病 室の壁に、和馬は湾岸戦争で白血病になったイラクの幼児たちの写真を、戦歴を誇るよ うに飾るのだ。イラクの幼児たちは、生きる希望さえも奪われていたが、それに比べれ ば、自分はまだ幸せだと慰めにもしていた。

その和馬の夢に、しばしば少女の後ろ姿が現れる。それが誰なのか―和馬が実家を訪れ た時、机の中から半分にちぎれた少女の写真が出てきたことで判明する。そこから、映 画はがぜん精彩を放ち始める。東京から転校してきた少女との出会いと別れの短い交流 が鮮やかに蘇ってくる。和馬が少女を自転車で”尾行”するシーンがいい。侯孝賢の傑 作「童年往事」を彷彿させる。

和馬が写真家になったのは、少女にカメラを教わったことが大きかった。少女のカメラ が旧式の箱型というのもいい。しかし、彼には少女への悔んでも悔みきれない思い出が あった。それが故郷を捨て、過去を忘れ去ろうとした原因になっていた。

 ところが、同級生たちによると、あの少女はいまも生きているという。それを聞いた 和馬の妻は衝撃をうける。夫からは死んだと聞いていた。不信感がつのる……。 「一瞬でも、永遠に思い出になる」―これは写真愛好家にはたまらない一編だろう。し かしラストが甘い。

6月9日より新宿バルト9他で全国上映。(木下昌明)

*以上の批評は『サンデー毎日』5/27、6/3、6/10号に掲載されたものに一部加筆したものです。


Created bystaff01. Created on 2007-06-07 16:56:29 / Last modified on 2007-06-07 17:02:44 Copyright: Default

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